そう見たのなら出ていけばよかったかもしれない。指揮官・矢野燿大よ。あおるつもりはさらさらないが2回、原口文仁が空振り三振を取られた場面にはそう感じてしまった。

「あれは振ってないでしょう。あれは、ちょっと、もう、大事なところやからね。審判だって一生懸命やっているし、判定に文句は言えないというか、オレも抗議にいけないっていうのはもちろん分かっているんだけど、あそこはちゃんと見てもらいたいよね」

3点を追う2回の攻撃。無死二塁で原口は初球からヤクルト小川泰弘に対して右打ちの姿勢だ。さらにファウルで粘る。最後はフルカウントからの13球目。外角に外れ、バットを止めて見送ったように見えた。途中からは粘っての四球狙いとも思えた打席だ。

しかし一塁塁審・山路哲生の判定は「スイングアウト」。一般にハーフスイングというのは「振っていない」と判定されても実は振っていることが多い。しかし、このプレーはVTRで見ても振っていないとしか思えなかった。この判定に原口の顔色が変わる。怒りに燃え、何ごとか、ほえているではないか。

そこそこ長い時間、野球記者をしてきたが原口文仁のような野球選手は他に知らない。どんなときも常に柔和で控えめ。自身が病魔から復帰したときですら「取材しているところ、テレビに映ってましたよ」とこちらに笑い掛けてくる。

体調とか変わった? ぶしつけに聞いたときも同じだった。「ヨーグルトを食べるとおなかを下すようになったかも。なんだか不思議ですね」。笑顔を浮かべて話していた。

そんな男が1打席に勝負をかけ「勝った」と思った瞬間、反対のことを言われた。もちろんジャッジは否定できない。しかし指揮を執る矢野には少し動きがあってもよかったと思う。

闘将・星野仙一のように「なんだ!!」と突っかかっていくのは難しいだろう。時代が違う。知将・野村克也のように審判に近づきボソボソいう感じも似合わない。それでも矢野流に「ホンマに振ってます?」などと確認だけでもしにいく様子は見たかった。

サイン盗み疑惑に矢野がキレたのはこの球場だ。大阪弁で悪態をついたあんな様子を見せる必要はない。それでも体を張る「闘志」は見たかった。それも戦いの先頭に立つ者の重要な要素だと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 2回表阪神無死二塁、スイングをとられ、空振り三振となり、声を上げる原口(撮影・江口和貴)
ヤクルト対阪神 2回表阪神無死二塁、スイングをとられ、空振り三振となり、声を上げる原口(撮影・江口和貴)