あれから1年か。月日の流れるのは早い。前監督・矢野燿大が衝撃的ですらあった「今季限り」を明かしたのは22年1月31日だ。

「今シーズンをもって監督は退任しようと思っている。『来年は監督という立場でここに来ていることはない』という気持ちを持って挑戦していきたい」。シーズン3位に終わった矢野はその言葉通りに監督を退き、後任として岡田彰布が2度目の指揮を執る。

岡田と矢野。阪神最後の優勝である05年は監督と正捕手の立場だった。闘将・星野仙一で18年ぶり優勝を決めた03年はコーチと正捕手。「大阪市出身」という共通項もある2人だがポリシーは大きく違う。

キャンプ地の沖縄に到着し、那覇空港で歓迎セレモニーを受ける阪神岡田監督(中央)。左は百北球団社長(撮影・前田充)
キャンプ地の沖縄に到着し、那覇空港で歓迎セレモニーを受ける阪神岡田監督(中央)。左は百北球団社長(撮影・前田充)

「言霊(ことだま)」を大事にする矢野は「予祝」という耳慣れない言葉を持ち込んだ。「優勝したい、ではなく優勝しました、と言おう。前持って口にすることで物事は実現する」。指導者になるにあたって、いろいろな思想を研究した矢野は自身のそれをチームに持ち込んだ。

岡田は慎重というか現実主義者である。オリックス監督時代、交流戦優勝の可能性が高まったとき「意識せんように優勝と言わず“アレ”と言え」と指摘。今回も「アレ」の連発で、しまいにはチームのキャッチフレーズになった。

「アレ」と「予祝」。正反対というか、極端に違うような気もする。岡田という人を直接知ったのは阪神からオリックスに移籍したころ。それ以来、ずっと感じていることがある。

精神論を言わない。そういうことだ。北陽(当時)から早大、ドラフト1位で念願の阪神入団。日本一85年は主軸にもなり、エリート街道だ。だが現役の最後に阪神を戦力外になり、オリックスに移籍。そこが指導者の基礎となった。野球人生を振り返り、矢野同様、それ以上に思い、伝えたい考えはあるだろう。

沖縄キャンプの宿舎に到着し花束を受け取る岡田監督(撮影・加藤哉)
沖縄キャンプの宿舎に到着し花束を受け取る岡田監督(撮影・加藤哉)

だが岡田はそういったことをほとんど口にしない。なぜか。その点を聞いてみたことがある。岡田は言った。「…精神論て。精神論なんか言うてもしゃあないやろ」。あの調子でそう笑われた。

18年ぶりV奪還を目指す礎となるこのキャンプ。岡田は「見極め」を強調した。無論、選手の成長への期待はあるけれど大事なのは「誰が使えるのか」を見極めることだ。本当にそろそろ勝ちたい阪神。指揮官のシンプルかつ厳しい視線でスタートする。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

沖縄キャンプの宿舎に到着した岡田監督(撮影・加藤哉)
沖縄キャンプの宿舎に到着した岡田監督(撮影・加藤哉)