「新しいことに挑戦しろ」。そんな上司の言葉を真に受け、大胆な企画書を出すと「ウチでは無理」と却下される。転職情報のCMにも出てくる光景は実社会でも起こりうることだろう。野球の世界でこれに当てはまるものの1つに「盗塁」があるのでは、なんて勝手に思っている。

「行けたら行け」。ベンチからは盗塁フリー、いわゆる「グリーンライト」との状況にあると仮定する。「いける」とばかりモーションを盗んで走ったが、捕手からタイミングばっちりの送球が来て、アウト。もちろん表立って責められることはないだろうが、見ている方は「なんだかな。ここで走るか」という感じになる場合もあるかもしれない。

「グリーンライト」は昨季まで監督を務めた矢野燿大で多かった。実際のところはベンチではなく一塁コーチ・筒井壮が「ここはいけるぞ」と指示を出すことが多かったようだが、それを受け、阪神の盗塁数が伸びたのは事実である。

だが新しい指揮官・岡田彰布の考えは違う。これまで「それは50も60も盗塁できる選手の話やろ」などと話し、基本、グリーンライトは廃止のようだ。盗塁に関しては「ディス・ボール」、つまりベンチが「ここで走れ」という明確なサインを出すということだ。

どちらがいいのか、そうでないのか。考え方はさまざまだが、ハッキリしていることはある。それは「責任の所在」だ。この日、03、05年の優勝時に俊足で貢献したOB赤星憲広が臨時コーチを務めた。レジェンドの教えに選抜された俊足選手たちは真剣な表情。詳細は虎番記者の記事で読んでいただくとして、注目したのは赤星が強調した点だ。

「ベンチからのサインで走るんだから。『失敗したらベンチのせい』ぐらいのつもりで走ればいい」。その通りだ。現実的には「スタートが悪い」などという話になるかもしれないが、基本、ベンチに責任があるのは当然だ。

「教育者になりたかった」という矢野は選手を大人扱いし、自分で考えて行動できる人間にしようという考えだった。岡田のそれは、選手の自主性よりも「戦いの駒」として使おうということだ。言い方はよくないかもしれないが。

これなら勝敗の結果はもちろん、ワンプレーの責任もベンチにある。当たり前だが分かりやすい。岡田阪神はシンプルなスタイルでV奪還の戦いに向かうようだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)