「周り見て!!」。神宮の一塁側ベンチからひときわ高い声が響いた。駒場の女子部員、赤岡毬萌内野手(3年)は今夏、初めて助監督としてベンチ入りを果たした。最前列で声を張り、チームメートを迎える。「マネジャーはスコア書きに集中してほしい」とドリンク交換も買って出た。ゲームセットの時まで、てきぱきと動き続けた。

 山田駿監督(23)が「陰のキャプテン」と認める存在だ。中学時代、クラブチームで女子野球全国8強になった。高校で勉強と両立するには、部に入るのが一番と考えた。男子との体格差は当然広がっていく。冬場の練習はついていくのがやっと。それでも「途中で投げ出すのが大嫌い」と音を上げなかった。

 女子は公式戦に出られない。スタンドから見る景色はフェンス越し。「その辺の野球ファンと同じ気持ちで見てました」。仲間のヒットも一緒に喜べない。もどかしかった。心苦しく思った指揮官に妙案が浮かんだ。助監督なら女子マネジャーと別に、しかもユニホームを着てベンチに入れる。「ぜひ一緒にベンチに立ちたいと思いまして」。晴れて“採用”となった。

 助監督らしく外野ノックも試みたが、パワー不足で断念した。代わりに、できる仕事を進んで探した。

 4回、1点差に詰め寄った。一番印象に残った瞬間だ。だがそこから、あれよあれよで10点差。最初で最後の務めはコールド負けで終わった。制服に着替えても涙はない。「みんなの前では泣きたくない。初めて一番近くで見ていられた。貴重な経験と素晴らしい仲間に感謝」。笑っていた。

 選手としてはこの日が最後だ。「3年間男子にまざって、女子野球の地位を確立したいと思った。将来はその運営に携わりたい」。プレーヤーを離れても、野球を大好きな気持ちに変わりはない。【鎌田良美】

 ◆赤岡毬萌(あかおか・まりも)1998年(平10)9月21日生まれ、東京・杉並区出身。小4夏から桃三ユニオンズで野球を始め、宮前中時代は女子軟式野球チームの三鷹クラブWで4番に座った。同3年時に全日本女子軟式野球大会、中高生の部で全国8強。駒場野球部では一塁手として練習をこなし、助監督で今夏初めてベンチ入り。164センチ。右投げ左打ち。