必殺の「乙戸ファイア」が火を噴いた。仙台商の2年生エース左腕・乙戸詠央(おつど・ながひさ)投手が泉館山に9回5安打12奪三振の快投で、3-0で完封勝利。右打者が7人並ぶ打線に対して、相手の内角をえぐるクロスファイアを投げきり、12三振中7つを見逃しで奪った。抜群の制球と強気な投球術で、昨夏準優勝校を破った相手の勢いを止めた。

 仙台商の真っ赤な炎が泉館山を焼き払った。マウンドに立つのはエース乙戸。身長165センチの左腕から放たれる直球は天野佑吏主将(3年)が右打者の内角に構えたミットにズドンと刺さる。ぶつかると思った打者がのけぞると同時に審判の右腕が上がる。見逃し三振。まるで爆発するようなクロスファイア。天野が「練習から角度を意識させて投げさせてます。これが『乙戸ファイア』です」と話す必殺技で見逃し7つを含む毎回の12三振を奪った。

 手を焼くどころではない。面白いように三振を取った。5回までの7三振で空振りはわずか1。相手打線が内角に手を出してこないと分析し、攻めた。乙戸は「話し合って、天野さんに配球のリクエストをする。今日は真っすぐがいっていたので、真っすぐ主体で」と初球から直球でカウントを作り、追い込む。「得意球です。特に右打者の方が投げやすい」と最後は胸元を焦がす直球で決めた。

 泣き虫が強気な男になった。内角に投げる時は「ぶつけるくらい強気な気持ちでいかないと」と言い切る。小学校1年生で始めた野球。母智香子さん(53)は小さい頃は試合に負けるとよく泣いていたと振り返る。「でも泣いたらスッキリして引きずらない。家で試合のビデオを見て、ここはなんでストライクじゃなかったんだとか分析してます」と敗戦を冷静に反省。涙の数だけ強くなった。

 思いを背負ってマウンドに立つ。名前の「詠央」は何事も読み取れる人間になって、いつも中心にいられる人間になってほしいとの願いでつけられた。2年生ながら背負う背番号1。下原俊介監督(45)は「乙戸がリズムを作ってくれたのが一番」と絶対の信頼を寄せる。白と赤がチームカラーの古豪。小柄なエースを真ん中に、燃える闘志で頂点を奪う。【島根純】

 ◆乙戸詠央(おつど・ながひさ)1999年(平11)8月11日生まれ。宮城・仙台市出身。小学1年で野球を始める。将監東中時代は仙台南シニアに所属し、投手。昨秋の新チームから背番号1となる。最高球速は120キロ後半。好きな食べ物はチョコレートで大会の初戦前夜はカレーライスを食べるのがルーティン。憧れの投手は巨人杉内、好きな色は赤。165センチ、62キロ。O型。家族は祖父母、父、母、兄。左投げ左打ち。