天国の父を、最後の夏に甲子園へ連れていく。第98回全国高校野球選手権(8月7日開幕、甲子園)東東京大会は準々決勝が行われ、関東第一が4番佐藤佑亮捕手(3年)のサヨナラ本塁打で逆転勝ち。1-2の9回に3番米田克也外野手(3年)からの2者連続アーチで4強入りを決め、昨夏から続く都内での連勝を「23」に伸ばした。

 父との約束を果たすまで、絶対に負けられなかった。土壇場で同点とした直後、佐藤佑が2球目のスライダーを完璧に捉えた。打った瞬間にサヨナラ勝ちを確信する大飛球は、左翼席中段に突き刺さった。敗退寸前からの劇的な幕切れに「後悔しないように振ろうと思った。サヨナラホームランは初めて。信じられない」。高校通算19号で勝利に導いた4番は、大歓声を受けながらゆっくりとダイヤモンドを1周した。

 病と闘った父のように、最後まであきらめなかった。今年2月下旬、父光靖(みつはる)さんが心不全のため亡くなった。48歳の若さだった。「自分が生まれてすぐくらいから、ずっと心臓の具合は良くなかった」と、入退院を繰り返していたという。容体が急変して病院に駆けつけ、最期にかけられた言葉は「甲子園で優勝してこい」。悲しみを乗り越えて出場した今春センバツでは、初戦の東邦(愛知)戦で1本のヒットも打てずに敗退。「結果を出せなかった悔しさを晴らしたいという思いが強い」。全国トップレベルの投手に打ち勝つため、打撃マシンを150キロに設定。鋭く曲がるスライダーも打ち込んできた成果を見せた。

 父の影響で4歳から野球を始め、いつも父とキャッチボールをした。「父も自分も巨人ファンだった」。地元茨城から、東京ドームまで応援に行った。試合で持参しているバッグには、観戦時に2人で撮った写真が入っている。

 楽天オコエを擁して4強入りした昨夏の甲子園、佐藤佑は劇的な勝利をベンチで見届けた。3回戦では長嶋亮磨外野手が、準々決勝ではオコエが、いずれも9回に本塁打を放って勝ち進んだ。「自分もヒーローになりたいと思っていました。ホームランボールは父に届けたい」と笑顔を見せた。チームの合言葉は「春の甲子園の借りは、甲子園で返す」。甲子園で輝く姿を、今度こそ天国の父に届ける。【鹿野雄太】