またも思いは届かなかった。29年ぶり出場の長崎商は、昨年の長崎代表校(創成館)同様、原爆が投下された8月9日の初戦となったが敗退。4強に進出した52年以来、64年ぶり勝利はならなかった。

 長崎商ナインは県民にとって特別な日に勝利を挙げることはできなかった。昨年の創成館に続き、今年も長崎勢の初戦は8月9日。長崎への原爆投下からちょうど71年の月日を経てグラウンドに立った選手たちに試合前、西口博之監督(55)は「被爆者や亡くなられた方たちのことを思い、平和をかみしめながら、野球ができる喜びを感じてプレーしよう」と声をかけた。

 長崎で平和祈念式典が行われていた頃、ナインは原爆が投下された午前11時2分から3分後の同5分、1回裏を終え、ベンチに戻って円陣を組んだ際に約20秒間、黙とう。長崎のための勝利を心の中で誓った。

 だが、勝利にはあと1歩届かなかった。長崎大会5試合を1人で投げ抜いてきたエース本田が初回にわずか2球で先制点を与えるなど、5失点。終盤、打線が2点差まで追い上げたが、及ばなかった。

 女子マネジャーが寝る間も惜しんで部員全員に作ったお守りをバッテリーがともに宿舎に忘れるハプニングも。本田は「普段以上の力が出ると思っていたけど…」。主将の捕手小出は「試合がこの日になって絶対に勝ちたかった」と唇をかみしめた。

 最後の打者となったのはスタメン唯一の2年生沢山だった。「今年は先輩たちに甲子園に連れてきてもらったが、次は自分たちが連れてくる番。来年こそは長崎に勝利を届けたい」。次期チームのエース候補は、この日の悔しさを胸に刻み、聖地でのリベンジを固く誓った。【福岡吉央】