2年ぶり8度目出場の八戸学院光星(青森)が最大7点リードを守りきれず、東邦(愛知)に9-10と壮絶な逆転負けを喫した。

 4点リードの9回裏にエース右腕・桜井一樹(3年)が東邦応援ムード一色に染まった球場の雰囲気にのまれ、2死からの4連打を含む6安打5失点でサヨナラ負け。ほぼ手中にしていた2勝目が逃げ、今春のセンバツと同様1勝に終わった。

 光星のエース桜井が甲子園にのみ込まれた。4点リードの9回裏。先頭に左前打を許すと、東邦打線の勢いを止められない。高めに浮いた球を狙われ5安打で同点に追いつかれると、最後は高めに抜けたスライダーを打ち抜かれた。マウンド上でぼうぜんと立ち尽くした桜井は「先頭を出して動揺してしまった。(打たれた瞬間は)何も考えられなかった。頭の中が真っ白になった」と赤く目を腫らしながら振り返った。

 最終回、甲子園は東邦の応援ムード一色に包まれた。攻撃時には光星を圧倒的に上回るブラスバンド演奏の爆音がうなる。9回先頭の1番鈴木光の打席では自然と球場中に拍手がわき、出塁するとボルテージは最高潮に達した。試合前半は東邦スタンドだけだったタオルを回す応援が、9回裏は甲子園全体に広がっていた。「全体が東邦を応援していた。全員が敵なんだと思った。今日負けて(野球の)怖さを知りました」。桜井が発した短い言葉が、すべてを物語っていた。

 約2万6000人の地元大応援団が詰め掛けた市尼崎(兵庫)との1回戦で「アウェー戦」の経験値はあったものの、この日は約4万7000人の観客が詰め掛けていた。桜井は「市尼戦と同じく応援を(逆に)味方にしようとした。タオルを振っていたのは見えた。気にしないようにしてたけど9回は7、8回と違う雰囲気だった」とうなだれた。伊藤優平内野手(3年)も「手拍子が起きたとき、すごく嫌な感じがした。球場全体が東邦に傾いていた」と号泣。球場を包んだ「東邦ムード」をはね返す力が、光星には残っていなかった。

 仲井宗基監督(46)は試合後、涙ぐみながら「この展開で勝たせてやることができなくて、自分の力不足を痛感しています。桜井を立ち直らせてやることができなかった」と下を向いた。11年夏から3季連続で全国準優勝した光星でも我を忘れ、のみ込まれてしまった。甲子園に潜む魔物を垣間見た、恐ろしい一戦だった。【高橋洋平】

 ◆敗れた八戸学院光星ナインのコメント

桜井一樹(3年) 野球は続ける。今日の経験を忘れずにやっていきたい。

奥村幸太(3年) 終盤以外は自分たちのペース。1度突き放しておけば。

益田敦成(3年) 9回で4点差に自分たちが甘えてしまったのかも。

伊藤優平(3年) 本来の力を出した試合。気の緩みがあったのかも。

徳田大沙(3年) まだ実感がなくて。何が起こってたのか分からない。

小林直輝(3年) 最後はみんなで戦った結果。悔いはないです。

小日出大里(3年) 悔しいです。点差があったので勝てると思ったけど。

花岡小次郎(3年) 球場全体が完全アウェーでも気にすることはなかった。

田城飛翔(3年) 注目された藤嶋とやれて良かった。東邦の方が上でした。

和田悠弥(3年) まさかです。こんな悔しい負けは人生で1度もない。

安藤譲二(3年) 自分が投げて助けたかった。本当に負けたのか。

真田駿(3年) 何も考えられない。信じられない。甲子園はやっぱり怖い。

太田聖大(3年) 最終回は何が起きたのか分からない。桜井を信じていた。

吉村健汰(3年) 桜井は責められない。笑え、楽しめと声を掛けた。

目黒海都(3年) 悔しいです。何を言っていいのか分からない。

戸田将史(3年) 負けた実感がない。日がたつと悔しさが来るのかな。

小淵智輝弘(2年) 新チームでは自分が引っ張って、また戻ってきたい。

辻優大(3年) 分からない。負けた気がしない。何でこうなったのか。