東北勢最後のとりで、聖光学院(福島)が「奇襲」で2年ぶり4度目の8強入りだ。今夏の福島大会で登板がなかった背番号8の外野手兼投手、鈴木駿輔(3年)が先発。14日の八戸学院光星戦で7点差を逆転したミラクル東邦(愛知)相手に、7安打5奪三振2失点で完投勝利を挙げた。聖光学院は今日18日の準々決勝で北海(南北海道)と対戦。勝てば、71年に準優勝した磐城以来、県勢45年ぶりの4強入りとなる。

 甲子園を覆い始めた手拍子とタオルを回す応援が、ピタリとやんだ。5-1で迎えた8回、東邦4番藤嶋に二塁打を浴びて1点を返され、なお2死一、三塁。再びミラクルを期待するスタンドの空気を、鈴木駿が断ち切った。135キロの直球で7番高木の内角をえぐって空振り三振。「自分の思いがこもった真っすぐ。後半のアウェー状態は想定内。8回ぐらいから、自分1人で投げ抜こうと思っていた」。県大会を通じて今夏初登板の男が、「甲子園の魔物」を封じ込めた。

 斎藤智也監督(53)は「正直、東邦には分が悪いと思っていた。言葉は悪いがバクチ野球。駿輔がよく応えてくれた」と振り返る。右足首の負傷もあり、鈴木駿は5月22日の春の県大会準決勝(磐城)以降、公式戦登板なし。しかし、クラーク戦で11安打も打ち込まれた投手陣を見て「少しでも役に立ちたかった」と、15日から志願して投球練習を再開していた。

 前日16日にはシート打撃に登板。伸びのある直球で3連続三振を奪った。それをみて、斎藤監督がひらめいた。この日の朝に先発を告げられた鈴木駿は「準備はしていた。ヨッシャーと思った」という。右打者には自己最速タイの142キロ直球で強気に内角を攻め、左打者には外角のチェンジアップを効果的に使った。文句なしの133球完投勝利だった。

 春夏通算20勝目を手に入れた斎藤監督は、前日のミーティングで刺激的な言葉でチームの士気を高めていた。「藤嶋は甲子園のヒーローかもしれない。うちはド田舎でヒーローもいない」と前置きをしながら「誰がヒーローって決めたんじゃ!」とあおり続けた。鈴木駿も「やりづらかったけど、おじけづくわけにはいかなかった」と意地があった。

 10年連続で出場しながらも、過去8強止まり。斎藤監督は静かに言った。「白河の関は福島にある。そこを自分たちでとりにいきたい」。3度はね返されてきた準々決勝の壁。「甲子園の魔物」を克服した今、壁を乗り越える時がやってきた。【高橋洋平】

 ◆鈴木駿輔(すずき・しゅんすけ)1998年(平10)6月12日、東京都生まれ。中村小2年から野球を始め、中村中では神奈川・麻生ジャイアンツボーイズに所属。両親が福島出身だったこともあり、聖光学院に進学。2年秋から背番号8でベンチ入り。秋の東北大会後に投手も兼任。182センチ、75キロ。右投げ右打ち。家族は両親、弟、妹。