春夏を通じて初出場の藤枝明誠(静岡)が、津田学園(三重)に延長11回、6-7のサヨナラ負けで涙をのんだ。静岡大会終盤から好調だった打線は中田悠斗主将(3年)の3安打を含む、先発全員の13安打をマーク、堅守でも、U-18代表候補の久保田蒼布(そう)投手(3年)をもり立てた。終盤に力尽きたが、随所に「明誠らしさ」を発揮し、初の甲子園を去った。県勢は4年連続の初戦敗退となった。

 11回裏2死一、二塁、サヨナラの打球が無情にも、藤枝明誠・常盤勇汰中堅手(3年)の頭上を越えた。甲子園で勝つ目標はかなわなかったが、中田主将の目に涙はなかった。3安打に加え、9回裏2死二塁のピンチでは、右中間の飛球をジャンピング捕球。堅守でもチームを支え続けた。

 中田 延長までやったけど、すごく短く感じるくらい、甲子園は最高の場所。素晴らしい仲間とできて、僕は幸せ者です。

 「笑顔一番」。この日のために新調した帽子のツバに自ら書き込むと、すぐ下には県大会からベンチ入りできなかった3年生部員が「いつでも俺らスタンドを見ろ!」とメッセージを書き込んだ。部員67人が「一心」となり臨んだ大舞台は初戦敗退に終わったが、県大会6試合で3失策だった守備はノーエラー。5犠打を記録するなど「明誠らしさ」を聖地でも存分に発揮した。1安打に2犠打を決め、守備でもガッツあふれるプレーを見せた2番松村太智内野手(3年)は「持ち味の守りはやれたと思います。甲子園は自分を成長させてくれる場所でした」。涙を流しながらも、誇らしげに言った。

 この日は午前9時から開会式に参加。入場行進で本番の空気を体感した後、近隣の体育館の和室で待機した。第2試合が始まる頃に甲子園の室内練習場に移動して備えた。ところが午後2時6分、第2試合の4回途中で雨が強くなり、1時間15分の中断。午後3時30分開始予定の第3試合が始まったのは同5時だった。2回表の攻撃前には同校の「日本一、1番が長い校歌」が3分1秒、フルコーラスで場内に響いた。試合終了は同7時15分。選手たちが校歌を歌うことはできなかったが、1万9000人の観衆が見守る中、ナイター照明の下、激闘を繰り広げ、再三の攻守と粘り強い打撃に大歓声が上がった。

 172球を投げて完投した久保田は「野手が助けてくれたのに申し訳ないです」と涙したが、光岡孝監督(39)は「久保田のおかげでここまでこれたことはみんな分かっている。監督の責任です」。そして「最強のヘボ軍団を目標に始まったチームが、『最高のヘボ軍団』になりました」と胸を張った。藤枝明誠が確かな1歩を記し、甲子園を後にした。【鈴木正章】