2年ぶり26度目出場の仙台育英(宮城)が滝川西(北北海道)を今大会最多得点の15-3で下し、06年以来8大会連続で初戦突破した。初回に3番山田利輝外野手(3年)が左翼席にライナーで飛び込む先制2点本塁打を放ち、続く2回には9番長谷川拓帆投手(3年)が3ラン本塁打を放つなど序盤から圧倒し、毎回の18安打で大勝した。2回戦は日本文理(新潟)と対戦する。

 無我夢中だった。山田は自分の世界に入り込むまで、集中していた。初回1死二塁、カウント1-0の2球目。ベルト付近にきた129キロ直球をフルスイングでしばき上げると、打球はぐんぐん伸び、弾丸ライナーで左翼席に突き刺さった。

 「何を打ったか覚えてない。体が勝手に反応した。最初はレフトフライかと思ったけど、二塁の審判が手を回していたのでホームランだと分かった。とても気持ちよかった」

 二塁を前に本塁打と分かると、両手をパンとひとたたきして右手でガッツポーズ。悠然と聖地のダイヤモンドを1周した。その後は、山田の本塁打が口火の号砲となり、18安打15点で大勝。前回出場時の15年も、1回戦で明豊(大分)に、同じく大量20安打を浴びせて12得点をたたき出し、一気に準優勝まで駆け上がっている。「吉兆弾」を放った山田は「初回に2点をとって勢いはついたけど、ここで満足していられない」と手綱を締めた。ここはあくまで通過点。目標はもっと先にある。

 発奮する理由があった。弟の脩也は南吉成小6年で、侍ジャパンU-12(12歳以下)代表に選出された。7月末からは日の丸を背負って、台湾で行われた「WBSC U-12ワールドカップ」に出場。先発投手を任されたが、4位に終わった。弟の敗戦を知った山田は母歩さん(39)にLINEで「弟の分も、俺が甲子園で頑張る」とメッセージを送っていた。

 この日、歩さんは甲子園のスタンドから初めて、息子の勇姿を見届けた。母の頬には涙が伝っていた。「親孝行してくれた。自分の息子じゃないと思うぐらい。この先もあるから頑張って欲しい」。声援を送った脩也も「僕も育英のユニホームを着て、甲子園でホームランを打ちたい!」と目を輝かせた。一方、有言実行の山田は「弟を尊敬しているけど、俺も負けられない。自分も頑張らないと」と兄としての顔を見せた。

 2回戦の相手は日本文理に決まった。だが目線の先は、3回戦で対戦の可能性がある大阪桐蔭へ、勝手に向いてしまう。山田は冷静さを保ちながらも、闘志を燃やした。「意識はする。でも、まずは次の試合に勝たないと」。家族の力を糧に、次も山田のバットが火を噴く。【高橋洋平】