「強気でいけ」。二松学舎大付(東東京)・市川睦投手(3年)は、伝令から伝えられた市原勝人監督(52)の言葉にうなずいた。6回。1点を奪われ、なおも1死二、三塁。足元を襲った強烈な打球に、右足を出した。かかとで蹴り上げる足技でボールをストップ。「とっさです」と投ゴロでピンチを脱した。

 涙を流したあの日から、はい上がった。1月下旬、市川は素振り中にグラウンドの端で泣きながら、主将の松江に「辞めたい」と打ち明けた。松江、佐藤巽副主将(3年)から「お前しかいないんだから」と説得されたが、1学年上の大江(現巨人)から受け継いだエース番号は重く、重圧との闘いだった。

 春の大敗で心身共に変わった。都大会の準々決勝、日大三に1-16の5回コールド負け。市川は3回途中6失点でKOされた。以降、市原監督から増量を指示され、夕食は1杯500グラムの米を4杯。体重は3カ月ほどで8キロ増の85キロに増えた。最速は6キロアップの143キロ。変化球でかわす投球をやめ、ピンチでは強気に直球で押した。

 マウンドでは8回1失点の好投。打席でも4安打1打点と期待に応えた。強さを得たエース市川は「監督を胴上げするのが目標」と意気込んだ。【久保賢吾】