6年ぶり3度目出場の花巻東(岩手)が東邦(愛知)を5-3で振り切り、09年以来9年ぶりの初戦突破を果たした。初回に無安打で先制すると、3-1の7回には3番阿部剛士内野手(3年)がダメ押しの中前適時打を放って逃げ切った。09年春準優勝、夏4強、13年夏4強と全国強豪にのし上がったが、ここ2年は不振に苦しんだ。15年夏の甲子園8強からは4季連続で聖地を逃し、16年夏の岩手大会では初戦敗退も経験した。同校の代名詞だった西武菊池、エンゼルス大谷らの大駒は不在だが、原点回帰の結束力で本来の強さを取り戻した。

 しぶとく粘り強い花巻東が、帰ってきた。15年夏の甲子園2回戦(8月13日)以来956日ぶりに校歌を聖地に響かせると、紫と灰色の戦士たちは喜びをかみしめながら、ゆっくりと一塁側スタンドへ歩みを進めた。3回には二塁手として中前に抜ける当たりを好捕し、7回にはダメ押し打を放った阿部は試合後、汗を拭いながら感慨に浸った。

 阿部 花巻東に入学してから勝てない時期が続いた。自分たちの代で強い花巻東を取り戻したい、という思いでやってきた。勝ったのは大きい。今日は花巻東の野球を見せられた。

 原点回帰で本来の力を取り戻した。昨年12月にはチームが浮上しないのを見かねた佐々木洋監督(42)が、甲子園常連だった時代の先輩たちと現役世代をあえて比較することで、菅原颯太主将(3年)にチームの現状を向き合わせた。

 菅原 強い代はごみ拾いやあいさつがしっかりできていたけど、負けた代はそういうのが見られなかったと監督から言われた。

 その後は選手全員で1時間のミーティングを繰り返し、野球以外の生活面を見直して礼儀を徹底した。3月に入ってからのキャンプでは菅原が発案し、遠征に参加した3年生全員にリーダーを置いた。

 好投した田中大樹投手(3年)を「部屋片付け係」に、バッテリーを組んだ佐藤千暁捕手(3年)と阿部を「忘れ物係」に任命した。バスや施設を最後に出て見回り役を行った阿部は「忘れ物は隙につながる。1人1人に役割があって、責任感を持ってやれた」と誇らしげに笑う。菅原は「みんなが自覚を持ってやってもらいたかった」と意図を説明する。責任を全員に負わすことでチームのまとまりを強める狙いがあった。

 今年は雄星や大谷らの大駒は不在だが、チームを助け合う「結束力」があった。阿部や佐藤は試合後、「田中が踏ん張っていた。何とか助けてやりたかった」と口をそろえた。往年の隙のない野球を取り戻し、会心の勝利を挙げた佐々木監督はお立ち台で胸を張った。「まだまだ力不足ですけど、落ち着いてゲームを展開できた。今日で自信がついてくる」。まだ復活の序章にすぎない。あと4勝で一気に悲願の「岩手から日本一」まで駆け上がる。【高橋洋平】