東京学館新潟が高田北城との延長12回の激戦を演じ、4-3でサヨナラ勝ちした。2-0の7回2死一、二塁にエース寺田仁投手(2年)が両足をつり、緊急登板した田村颯瀬投手(2年)が、勝利の立役者になった。延長12回1死満塁の場面で左翼への犠飛を放ち、2時間49分のゲームに決着をつけた。

 左打席の田村颯は笑っていた。延長12回1死満塁、サヨナラ勝ちの絶好のチャンスに打順が巡ってきた。リラックスした笑顔に見えたが、実情は違う。「足はガクガク震えていた」という緊張を、相手バッテリーに隠すための強がりだった。外角高めの直球を素直にバットを振り切って左翼に運んだ瞬間も、実は「バットをこすったから、あっと思った」と言う。ところが、ボールは伸びた。サヨナラ勝ちを決める犠飛になった。一塁まで走り込んで喜びの輪の中に戻ってくると、チームメートに白いヘルメットをつけた頭を何度もたたかれた。

 緊急登板だった。マウンドでエース寺田が両足太ももと、ふくらはぎをつり、2-0で迎えた7回2死一、二塁の場面で“スクランブル発進”。急きょマウンドに上がった。「心の準備ができていなくて焦った」という動揺が投球に表れ、ボーク後の二、三塁のシーンに連続長短打を許し、一時は逆転されてしまった。

 苦しいマウンドはチームメートらに支えられた。坂上達亮一塁手(3年)には「怖い顔をしているから笑え」と言われ、こわばった表情を崩し、1打者ごとに深呼吸をひとつして投げ続けた。延長に入ると、旅川佑介部長(36)からこう指示されている。「相手打者よりオマエの方が上。緊張でバタバタしているから自分に自信を持って投げろ」。

 そんなアドバイスに田村颯は、自分自身を取り戻した。8回以降は無失点で切り抜けた。延長12回1死満塁の場面で打席に立つ前には同僚たちのこんな声を聞いた。「ここで決めたらヒーローになる」。田村颯は、粘投を自分のバットで勝利につなげた。【涌井幹雄】