大垣日大(岐阜)が豪快なアーチ3発で逆転勝ちを飾った。先手を奪われたが4回に堀本洸生外野手(3年)が逆転満塁弾を右翼席へ。今大会最年長の74歳、阪口慶三監督に4年ぶりの白星、歴代単独8位の甲子園通算38勝目をプレゼントした。かつて「鬼」と評された指導者も今では「仏」といわれる。優しい笑顔が広がった。

 74歳の体に勝利の喜びが染みた。阪口監督が試合後、晴れ晴れとした表情を浮かべた。「うーん、最高ですね。うちの野球じゃないですね。こんなに長打は出ない」。2点を追いかける4回無死満塁。7番堀本が右翼へ逆転のグランドスラム。5番小野寺は7回にこの日2発目となるダメ押しの3ラン。岐阜大会6試合で2本塁打だった打線が、3アーチなどで9得点。鮮やかな逆転勝利で4年ぶりの初戦突破を決めた。

 堀本は打席に入る直前、「阪口マジック」にかかっていた。「50年来の監督生活の中で、お前のお父さんは一番度胸があった。お前はそのDNAを継いでいる。だから初球から狙っていけ!」。阪口監督は、堀本の父が東邦(西愛知)時代の教え子であるかのようにハッパをかけた。だが、実は全くの作り話。堀本の父は石川県の高校出身で、教え子ではない。名将のとっさの作り話に乗った堀本は初球打ち。公式戦初アーチが劇弾となった。

 阪口監督自身もノリノリだ。試合前、甲子園で11年ぶりに内野ノックを打つ姿があった。8年前に手術を受けた脊柱管狭窄(きょうさく)症の影響で左手がしびれ、近年はノックを打てなかった。しかし「100回大会に出られるとなったら、左手が不思議に動くんですよ」という。

 かもしだす雰囲気も昔とは一変。練習中は「鬼」だが、グラウンドを離れれば「仏」。試合に向かうバスの中は、いつもカラオケ大会。ナインは流行の歌を歌うが「監督がご機嫌になる」と、美空ひばりの「川の流れのように」も選手の十八番だ。今夏の岐阜大会準々決勝に向かうバスの中、阪口監督が初めて歌った。タイトルは「揚子江のカラス」。阪口監督が中国に行った時に自作した歌で「カアー」というカラスの鳴きまねにナインは大爆笑。互いに乗せ合うムードに包まれている。

 選手は自分たちを「鬼のこども」と言う。「感謝です。74歳の私に付いてきてくれる」と阪口監督。1勝で終わるつもりは毛頭ない。【磯綾乃】