第101回全国高校野球選手県(8月6日開幕、甲子園)の東北各県大会は今日9日、青森大会を皮切りに開幕する。

青森では、春季東北大会を初制覇した弘前学院聖愛が令和元年の高校野球界に革命をもたらす。原田一範監督(41)は昨年12月、メジャーリーガーを多数輩出する中南米のドミニカ共和国を訪問。野球の楽しさ、素晴らしさ、育成の重要性を再確認した指揮官のもと、エンジョイベースボールで13年以来6年ぶり2度目の甲子園を狙う。

   ◇   ◇   ◇

わずか3日間の滞在だったが、原田監督にとってかけがえのない体験となった。昨年11月、ドミニカ共和国の野球事情に詳しい堺ビッグボーイズ(大阪)阪長友仁コーチ(38)の「選手指導、育成セミナー」に参加。人口は日本の12分の1の約1000万人、九州と高知県を合わせた小国からなぜ100人近い現役メジャーが誕生するのか。「とにかく生で見てみたい」。話を聞いたその日に、1カ月後のドミニカ行きを決めた。

現地では小、中学生チームの練習や試合を視察。指導者から聞き慣れた言葉が飛び出した。「オー、コーシエン、コーシエン」。日本の勝利至上主義による投球過多や真夏の連投、過酷な練習などに話題がおよぶと「何で楽しい野球を苦しんでやらなきゃいけないんだ? 何で負けて泣くんだ?」と不思議がられた。「甲子園がそんな意味で使われているなんて…」。ショックとともに、選手ファーストの姿勢を再認識した。

子どもから老人、そしてメジャーリーガーまでが一緒にプレーする光景も新鮮だった。「すてきだなあと。みんな野球を楽しんでいた。日本だと枠に縛られて、なかなか交われない。なんて閉ざされているんだと」。東北大会の表彰式後に、敗れた明桜(秋田)の選手たちを誘って一緒に肩を組んで記念撮影した際には、「これ、やりたかったんですよ。みんな野球が大好き。両校優勝です。勝った方が偉いんじゃない」とさっそく、小さな願いもかなえた。

「楽しむ=好き勝手」ではない。「高校野球は人間育成の場」という根底は揺るがない。「日本には日本の良さもある。礼儀や道具を大切にしたり、時間を守る、自分より相手のことを尊重するといった部分は大切にしたい」。そのためにも野球を心底好きにならないと、よりうまくなろうと技術を磨かず、厳しい練習にも取り組めない。練習メニューも選手が考え、昨春からは試合中のサインも極力出さないようになった。「指示待ちスポーツから脱却して、サッカーやラグビーのように選手が考えてプレーしないと」。自主的な姿勢なくしてモチベーションは生まれないと考えている。

東北大会後は練習試合でも6戦負けなし。「成功体験は自信になっていると思います。リードされていても慌てなくなりましたね。勝とう勝とうと意識せず、純粋に野球を楽しんでいるみたいですね」。原田イズムが浸透中の弘前学院聖愛が、新時代のエンジョイベースボールで2度目の甲子園を狙う。【野上伸悟】

▽弘前学院聖愛・斎藤悠輔主将(3年)「東北大会優勝は終わったこと。どこが相手でも僕たちのやることは変わらない。投手中心にリズムを作り、少ないチャンスをものにし、コツコツと得点していく。目の前の1戦に全力を尽くすだけです」