「2020年甲子園高校野球交流試合」(8月10~12、15~17日、甲子園)の開催が10日、発表された。今春センバツに出場予定だった32校は、特別救済措置を喜んだ。21世紀枠で46年ぶりに出場予定だった磐城(福島)は、監督、部長らが3月いっぱいで転出する中、新たな目標を見つけた。

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1度は完全に諦めた夢舞台が、今度こそ現実のものとなる。午後5時半、課外授業を終えた3年生が加わると、磐城の選手たちは練習を中断し三塁ベンチ前に集合した。渡辺純監督(38)から「甲子園で試合ができる。最高だな、たまんないな」と伝えられると、自然と笑みがこぼれた。岩間涼星主将(3年)は目を潤ませながら「もう甲子園に立てないと諦めていたけど、多くの関係者の方が、この厳しい状況の中、自分たちの思いを胸に動いてくださった」と感謝した。

2、3年生20人にとって、酷すぎる3カ月間だった。昨秋の東北大会では、初戦突破後に台風に見舞われるも2勝。8強で力尽きたが文武両道、地域貢献も評価され、21世紀枠で46年ぶりの選抜出場をつかんだ。しかし3月11日、大会は中止に。木村保前監督(49=福島商、高野連理事)大場敬介前部長(30=千葉・旭農)が転出、阿部武彦前校長(60=いわき光洋)が定年で転任となる悲運も重なった。「お世話になった3人を夏の甲子園に連れて行く」と目標を切り替え、約2カ月間の練習自粛中も、各自が近所の公園などで自主練習を続けた。夏の開催を信じたが、今度も願いはかなわなかった。エース沖政宗投手(3年)は「僕の野球人生の95%が終わった」と漏らした。

進学校ゆえの難しさもあった。最大目標を失い、受験に切り替えようとする選手もいた。岩間主将は3年生全員に電話をかけ思いを伝えた。合同練習が再開した8日、グラウンドには全員の姿があった。「最後までやりきろうと、同じ方向に向かうことができてうれしかった」。この日、ついに朗報が届いた。

甲子園での1試合に全てをかける。沖は「もう1回ギアを入れ直し、最高の準備、最高の舞台を迎えたい」。岩間は「勝ちという結果で、支えてくれた人たちに恩返ししたい。はつらつとしたプレーで、今、暗い日本を、少しずつ明るくしていけたら」。感謝の思いを胸に聖地に向かう。【野上伸悟】