<高校野球愛知大会:豊川32-0新城東高作手>◇5日◇1回戦◇豊橋市民球場

試合の裏にある高校野球ならではのドラマを「心の栄冠」と題し、随時紹介します。

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3年生のための独自大会ならではのドラマが起きた。豊川が15点リードの3回、無死三塁で代打に本来は学生コーチを務める加藤朱良外野手(3年)が登場。「ほぼ1年ぶり」という打席、公式戦では初の打席で初球を右翼へ二塁打。さらに猛攻は続き、この回にもう1度無死二塁で打席がまわってくると、1ボールから3球ファウルで粘り5球目を左翼席へたたき込んだ。

日ごろは裏方として支えてくれる加藤の本塁打に豊川ベンチは大盛り上がり。今井陽一監督(54)は「公式戦で涙したのは初めて」と目をうるませた。加藤は「本塁打を打ちたいと願っていた。悔いのないようにと。当たった瞬間、本塁打と確信しました。本塁打は高校で初めてです」と喜んだ。

三重から越境入学した加藤は、強打の外野手として期待された。だが、送球難に苦しみ、一塁転向なども実らず、自分たちの代となる昨年夏に1カ月悩み、学生コーチへの転身を決断した。

ノックを打ち、マネジャーとともにチームの世話もする加藤に、今井監督は2日のメンバー発表の際に、背番号20を与えた。「驚きました。そこから3、4日しか打撃練習していません」と、急きょ自らの練習をしてこの日に備えた。

本来試合予定だった前日4日が雨天中止になったため、両親には本塁打を放つ姿は見せられなかった。「このボールは両親に贈ります。大学ではアメリカンフットボールでプレーする姿を見せたい」。野球は高校で辞め、175センチ、92キロの体格を生かし大学ではアメリカンフットボールに転向するつもりだ。【石橋隆雄】