夏季北海道高校野球大会は8地区で開幕した。札幌地区では17年夏以来の出場となった札幌白陵が野幌、札幌南陵と連合を組んで出場し、札幌稲雲に2-13の5回コールドで敗れた。札幌白陵の斎藤旺遊撃手は今春に東京・東村山高から転校し、菅原優人中堅手(ともに3年)とたった2人でコロナ禍の中で活動を続けてきた。

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復活を遂げた夏は短かった。プレーボールから1時間19分。札幌白陵・斎藤はベンチ前で相手校が校歌を歌う姿を見届けた。「自分にとって高校野球は人生。チームメートや先生方からたくさんのことを学びました」。今春袖を通した真新しいユニホームを泥だらけにして、言い切った。涙はなかった。

札幌白陵にとっては、17年夏以来の公式戦だった。0-7の3回。1死から斎藤が左翼線二塁打で出塁。次打者も続き一、三塁とすると重盗で連合初得点した。ホームを踏んだ斎藤は「今日は試合でいっぱいいっぱいになっちゃって、楽しむ余裕はなかった」。必死で、試合中の記憶はあいまいだった。

父親の仕事の関係で4月に転校してきた。東京・東村山高時代も野球部だったが、休部状態だった札幌白陵で野球を続けるつもりはなかった。コロナ禍で夏の大会も不透明。それでも中嶋淳監督の誘いに「連合で試合ができる可能性があると言われた」と決断した。

4月に一緒に入部した菅原とふたりで、常に前向きに過ごしてきた。連合での練習以外は2人でのキャッチボールやティー打撃の日々。その限られた環境でも野球ができる喜びに勝るものはなかった。転校前の東村山高でゆかりがあり、幼少期から好きだった故志村けんさん(享年70)の「だいじょうぶだぁ」の精神。菅原が3回2死一、三塁で中前適時打を放つと、斎藤はベンチから誰よりも大きな声を上げて相棒をたたえた。

斎藤は言った。「自分1人では大会には出られていなかったと思う。感謝しかない」。短くとも濃密な夏。菅原、そして連合の仲間への感謝を胸に、晴れ晴れとした顔で球場を去った。【浅水友輝】