試合の裏に、高校野球ならではのドラマがあります。「心の栄冠」と題し、随時紹介します。

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甲府工(山梨)山村貫太外野手(3年)が、親子鷹で挑んだ最後の夏が終わった。

父は楽天などで活躍した投手で、現在は同校コーチの宏樹さん(44)。プロの舞台で抑える姿を見て、「自分も父のようになりたい」と、楽天の少年野球チームに入った。尊敬している人も、憧れの人も「父」。高校も、宏樹さんがコーチを務めている甲府工に進み「父と甲子園に行く」ことが目標だった。

その目標がコロナ禍でなくなった。そして、7月には昨年までともにプレーしてきた五味太陽さんが交通事故で亡くなった。短い期間で続いた「甲子園中止」と「大好きな先輩の死」。高校生では抱えきれないくらいの悲しみ、苦悩を抱えながらも、山梨制覇を目指し必死に汗を流してきた。

試合後は、泣きじゃくる後輩たちの背中をさすり続けた。最後まで副キャプテンの役目を全うし、言った。「(父には)『ありがとう』と伝えたい。感謝の気持ちしかない」。宏樹コーチは「いろんな意味で本人が一番つらかったはず。でもよく頑張った。よくやった」と言葉を詰まらせた。

山村には次の目標がある。「大学で力をつけ、父のようなプロ野球選手になること」。今度こそ、夢をかなえる。父のそばを離れ、新たな人生がスタートする。【三須佳夏】