各都道府県で行われた代替大会も含めて「特別な夏」は、どういう形で高校球児の財産になっていくのか。甲子園で開催中の交流試合、大阪の代替大会などを見届けたPL学園(大阪)元監督の中村順司氏(74)が、今夏を語った。

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甲子園の風景が、今年は違って見える。大きな声援、ブラスバンドの熱演がない代わりに、気迫あふれる投手の声、受ける捕手のミットの響きが放送席にも聞こえてくる。うまいキャッチングは球がミットに吸い込まれるような音を生んで、ぞくっとする。

開催が決まった時から、交流試合観戦を楽しみにしていた。今年の球児が「ぼくらのときはコロナで大会がなかった」と嘆くのではなく「いつもと違う夏があった」と高校時代を思い返すことができるのではないか。期待とともに開幕を待っていた。

3年生の熱のこもったプレーに、彼らの思いがあふれている。大会1号は県岐阜商の佐々木泰主将が打った。新型コロナウイルス感染拡大で岐阜の代替大会出場を辞退。最初で最後の試合の一振りに込めた集中力は素晴らしかった。2年生投手のもとにロージンバッグを届け、激励する3年生投手も印象的だった。

一方、野球道具を正しく使えていない選手がいたのは気にかかった。ファウルでうまく逃げているように見えて、バットがボールに押されているケースもあった。投手のグラブの使い方に、これではライナーが顔面近くに来たときによけきれないのでは、と心配になった。全国の小・中学生がテレビ中継を通じ、高校球児を見ている。手本になる姿を見せてほしい。

うれしいことも気になることも、高校野球の試合が今夏も途切れなかったことで生まれた。高校野球にお世話になった者として、尽力された方々に感謝を申し上げたい。3年生が、この夏の経験を人生に生かしてくれることを願ってやまない。(PL学園元監督)