優勝旗の白河の関越えの夢は、またしてもついえた。春夏甲子園で準優勝3度の仙台育英(宮城)は、天理(奈良)に3-10で敗れ、20年ぶりのセンバツ4強を逃した。打線は193センチ右腕の達孝太(3年)に対し、5回までに103球を投げさせるなどボールの見極めを徹底。8安打9四死球で好機をつくったが、15残塁の拙攻で、あと1本に泣いた。それでも2点を追う3回、「3番右翼」の八巻真也外野手(3年)がチーム初、大会通算7号の本塁打を放って意地は見せた。

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仙台育英の絶好調男が、反撃ののろしを上げるアーチをかけた。0-2の3回無死走者なし、左打席に入った八巻は、カウント2-1から内角真ん中直球を強振。右翼席ポール際に運んだ。「どんな形でも出塁すれば後ろにいいバッターがいる。1人出れば流れが変わると思って打席に立ちました」。完璧に捉えた打球は勢いよく飛んでいく。公式戦2本目となる通算7号。「入れ!」の願いが届いた。1死二、三塁では主将の島貫丞(じょう)内野手が、同点の犠飛を放った。

チーム最強打者だ。八巻は4回に左前打、6回には四球、8回こそ凡退したが、2回戦の神戸国際大付(兵庫)戦の第1打席から9打席連続出塁(単打4、三塁打1、本塁打1、四球3)。帽子のつばには「最強になれるように」と「八巻家最強」の言葉を刻む。昨秋の公式戦打率は4割8分4厘。今月6日の対外試合解禁後は、本調子ではなかったが、自分の好調時の打撃動画を見ながら練習で修正し、今大会5割4分5厘と打ちまくった。

同点後の4回に暗転した。2回にマウンドに上がったエース右腕・伊藤樹(3年)が、先頭を三振に仕留めて1死を奪う。だが、渡辺旭内野手(3年)の3失策が絡み、2死から一挙4点を勝ち越された。渡辺は「この試合は自分のエラーで負けてしまった。ピッチャーに申し訳ない気持ちです」。5回には左翼ファウルグラウンドで打球を追った、この日2安打の遠藤太胡(だいご)外野手(2年)が、左足首の捻挫で負傷交代。その直後に左中間を破られて2点追加され、6回にも再び2点奪われた。

昨秋の東北大会を制し、コロナ禍で中止になった昨春、夏と甲子園2大会分の思いを込めて臨んだ舞台だった。「日本一からの招待」をチームスローガンに、春夏通じて東北勢初の全国制覇を目指した。

8安打9四死球でチャンス演出も、15残塁で3得点止まり。須江航監督(37)は「リードできなかったのがすべて。常に追いかける展開、追いついても勝ち越せなかった」。アクシデントも重なったが「不運だと思っていたら東北の歴史は変わらないです。必然のエラーと、失点と、3-10のスコアにはすべて意味があるので、実力がなかった以外の答えはないです」と夏こそ雪辱を期す。東北の常勝軍団から日本一の常勝軍団となり、高校野球史を塗り替える。【山田愛斗】

○…先発した最速143キロ左腕・古川翼(2年)は、初回で無念の降板となった。「武器のストレートが球速以上に回転が良くて、バッターが振り遅れているように感じた。調子は良かった」が、2安打1四球で2失点。夏に向けて追い込んだ後の制球力、球速を磨き「ピッチャーとして総合的にレベルアップしたい」と雪辱を誓った。

▽仙台育英・島貫丞主将(3年=東日本大震災から10年を迎えた中での今大会を振り返り)「節目の大会に出場させてもらって、さらに選手宣誓もできて、東北の代表として出場している分、優勝したかった」