ハンディキャップをものともしない136球の熱投だ。左手に先天性の障がいを抱える神島のエース右腕、笠松子龍(かさまつ・しりゅう)投手(3年)が春季和歌山大会2回戦(紀三井寺)の和歌山商戦に先発し、6回2/3を9失点で敗れた。中盤は2ラン2本を被弾。だが意地がある。6回2死二塁。鮮やかな外角速球で見逃し三振を奪った。

「結構打たれて自分の責任だと思いました。2ストライクを取った後、2死からの決め球が甘くなった」

生まれつき左手の手のひらがなく、指も短い状態で、この日も左投手用グラブを左手で添えて投げた。捕球時は右手にグラブをつけ、投球直前にグラブを左手に置き換える。打撃は左腕のアンダーシャツでバットを巻き付けるように持ち右手を添えて振る。この日は三振と遊ゴロだったが、高校1本塁打の打力もある。

小学3年から野球を始め、校長にある選手の存在を聞いた。先天的に右手首から先がないハンデを克服し、メジャー87勝を挙げたエンゼルス伝説の左腕、ジム・アボットだ。無安打無得点も達成。笠松は「見たことはあります」と言う。

笠松は「(グラブの)持ち替えは自分で(練習して)やりました。困ったりしたことはないです」と続けた。バントは右手の素手で捕って処理。投ゴロは「必ずよけなさい」とチームで決め事があり、仲間がカバーする。中瀬学監督(41)は「一番、安定しています」と信頼する。1学年下で三塁を守る弟の大翔の影響で野球を始めた笠松は言う。「1番なので自分で流れを作って試合を作らないと。(目標は)甲子園です」。エースの自覚を胸に、夏に向かう。【酒井俊作】

◆笠松子龍(かさまつ・しりゅう)2003年(平15)9月25日、和歌山・田辺市生まれ。上秋津小3年から野球を始め、軟式の上秋津少年野球クラブでプレー。上秋津中の軟式野球部をへて、神島では1年夏からベンチ入り。3年春から背番号1を背負う。最速は「130キロくらい」で、球種はカーブ、スライダー、チェンジアップ。180センチ、70キロ。右投げ左打ち。