興国の大江遼也投手(3年)はベンチを飛び出し、2度3度と大きくガッツポーズ。延長14回、サヨナラのホームを踏んだ三塁走者の渡部颯外野手(3年)と抱き合い、喜びを分かち合った。サヨナラ打の中村に「2年生なのに本当に良くやってくれた」と感謝し、「これでやっと大阪桐蔭とやれる」と声を張った。

相手はノーシードながら19年夏の全国王者。3時間半に及んだ激戦で、勝利を呼んだのは大江の快投だ。7回にそれまで無失点投球の先発左腕の田坂祐士投手(3年)が1点を返され、1人救援を挟んでなお無死満塁で登板。「田坂はそこまで1失点と頑張った。今度は自分が」。ただ、大江の意気込みは空回りして押し出し四球と適時打を浴びた(記録は田坂の失点)。何とか同点で踏ん張ると、14回まで毎回走者を背負いながら8イニングを1失点と粘投。喜多隆志監督(41)は「大江と心中するつもりだった。彼が打たれたら仕方ない」と振り返った。

昨秋の大阪大会で興国は大阪桐蔭に15失点して完敗。当時ベンチ外だった大江はスタンドからこの一戦を見て「自分が投げてこの学校を倒したい」と目標を立てた。喜多監督からも「背番号1番を取りなさい。練習には1番に来て何事も1番を目指しなさい」とハッパを掛けられ、やる気に火が付いた。「(練習に)1番に出るなど意識を変えて、1球を大切にするなど練習の意識そのものも変わった。今日はその集大成」。大切に投じた109球に胸を張った。

田坂と大江の左腕コンビを中心に優勝した75年以来の決勝に進んだ。「大阪桐蔭だけを見てここまでやってきた」と大江。今度はスタンドでなく、18・44メートルの距離を挟んで対する。68年夏の甲子園で初出場初優勝を果たした古豪が、西の横綱に土をつける準備を整えた。【前山慎治】