代役センバツ出場の近江(滋賀)が、「京都国際魂」で長崎日大との延長13回の激闘を制した。17日に京都国際が新型コロナウイルス集団感染のため、出場を辞退。近畿地区の補欠1位校として繰り上げ出場が決まった。エース山田陽翔投手(3年)が165球2失点完投。親交がある京都国際の森下瑠大投手(3年)の無念を胸に投げ抜き、今大会初のタイブレークに突入した13回に自ら決勝打を放った。広陵(広島)は敦賀気比(福井)を圧倒。聖光学院(福島)は二松学舎大付(東京)に快勝した。

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友の分まで、腕を振った。9回で123球、10回で139球…。マウンドを譲るつもりはない。山田は4点を勝ち越した13回も、140キロ台を連発。今大会最速の146キロを計測し、全球に魂を込めた。多賀章仁監督(62)が振り返った。

「向こうのエースの森下君と山田が仲良くさせてもらっている。山田は森下君の無念をしっかり持って投げてくれた。本当に気持ちのこもった熱投。代えられない」

17日に京都国際が新型コロナ集団感染で辞退。そのわずか3日後、近江は甲子園に登場した。友が立つはずだったマウンドで、1球もおろそかにしなかった。同点の延長10回1死満塁。絶体絶命で「勝つことに疑いがなかった。味方のエラーも自分が背負う」と腹をくくった。2死後、勝野には全力の142キロで空を切らせた。13回は自ら左前に決勝打。4番として、エースとして、踏ん張った。山田も言った。

「出場のうれしさより、辞退した高校のことを思うと、いたたまれない気持ちが強かった」

山田と森下。昨年8月、夏の甲子園が終わったあと、山田のもとに郵送でタオルが届いた。差出人は「森下瑠大」と書かれていた。それぞれが大会出場の記念タオルを製作。山田も森下に送って交換した。同じ黒土のマウンドで、チームを甲子園4強に導いた。同じ近畿地区で、ドラフト候補に成長した。タオルの交流は、エース同士が認め合う証しだろう。

急転出場の慌ただしさを静めたのは多賀監督。自身も京都国際の小牧憲継監督(38)に連絡をもらった。試合前、選手に告げた。「京都国際さんの分まで今日は思い切りやろう」。9回に2点差を追いついた。粘りは健在だ。右肘痛で昨秋、公式戦登板ゼロの山田は復帰2戦目。終盤、足に疲れが出ても耐えた。「甲子園という舞台はすごく力を貸してくれる。目標は日本一。それに近づける第1歩」。負けられない思いが、かけがえのない1勝を生んだ。【酒井俊作】

○…近江は前代未聞の日帰りの強行軍になった。出場決定から3日後の試合で、宿舎の手配どころではなかった。午前6時半に彦根市をバスで出発。名神高速道路の草津PAで山田らが途中乗車し、駆けつけの一戦になった。試合後も彦根に帰った。近日中に宿舎入りする方向という。アルプス席では吹奏楽部53人がブラスバンドでもり立てた。顧問の樋口心教諭(46)は「生徒もビックリしていた。練習の不安はない。同じことならできる」と胸を張る。「アルプス一万尺」や「Fireball」などを奏で、熱戦を後押しした。

◆タイブレーク 甲子園では18年春から導入され、延長12回を終え同点の場合、13回から無死一、二塁で行う。打順は12回終了後から継続。1人の投手が15回を超えて投げることはできない。これまで春に1度、夏に3度実施された。決勝でも採用する。