エースとして、その役割を全うするー。ゲームセットの瞬間、7回で降板した木更津総合、先発のエース・越井颯一郎投手(3年)は、押し出し死球でマウンドを降りる金綱伸悟投手(3年)に駆け寄った。「次もある。先に自分が失点した自分が悪かった」と声をかけ、肩をポンポンと2回、たたいた。

初回から、テンポよく投げ込んだ。ストライクゾーンを大きく使い、真っすぐとスライダーで7回まで毎回の11奪三振と試合を作った。唯一崩れたのは6回。2死三塁から、甘く浮いたスライダーを中前に運ばれ1失点。制球が自慢の手元がわずかに狂った。「投げた自分の球が悪かった。それだけかな、と思います」と言葉少なに振り返った。

マウンドを降りてもエースの役割は忘れなかった。初めて甲子園で登板する金綱、金本琉瑚投手(3年)に、ベンチから「楽に投げていこう!」と声をかけ続けた。延長12回裏、2死一塁で金本のベルトが切れると、換えのベルトを持ちベンチから駆けだした。「ナイスピッチング。これを続けていこう」。延長戦で力投するチームメートを鼓舞し続けた。

昨秋、千葉県大会準決勝。市立船橋戦で9回裏に同点打を許し延長に入り、降板。試合はその後、延長10回表、2点勝ち越し勝利したが、試合後、ふがいない投球に涙した。五島卓道監督(67)はそんな越井に声をかけた。「2回も3回も悔し涙を流したらアカンよ。悔し涙は1回だぞ」。この試合をきっかけに越井は精神的に強く変わった。エースとして、気丈にチームを引っ張り甲子園にたどり着いた。2試合で20回を投げ10安打17奪三振で失点はわずか2。真っすぐとスライダーと制球力の高さ。そして、エースとしての存在感は全国に知らしめた。

越井は試合後「悔しいというひと言だけです」と言い切った。悔しさを糧に、もう1度、大きくなる。ここで泣くわけにはいかない。夏は笑顔の涙を流す。大舞台に誓った。【保坂淑子】

▽木更津総合・五島卓道監督(13回の継投に対し)「調子は金本の方がよかったんですが、経験もあって。このチームは(昨秋から)越井、金綱が投げながらやってきた。最後は金綱に任せようと思った」

▽木更津総合・金綱(サヨナラ押し出しに)「全員がつないでくれた中で期待に応えられなかった。情けない。抑えたいという気持ちが出過ぎてボールが浮いた。自分で気持ちが抑えられなかった」