センバツ準優勝の近江には頂上決戦を知るバイブルがいた。01年に主将として夏の甲子園準優勝へ導いた小森博之コーチ(38)だ。当時は日大三(西東京)に2-5で惜敗。21年前の決勝を「その時はミラクル的な勝ち方をしてきたものですから『絶対優勝するぞ』という感じではなかったんですよ。決勝まで来ていたことが不思議な感じだった」と振り返る。

それでも準V戦士の経験は大きい。「僕も経験したのですが、甲子園は満員になるとパニックになる。どこを見ればいいのか分からなくなる時があるんですよ。高校生だから緊張もするし、ピンチなら動揺もする」。だから、ナインにはある指示を出していた。「マウンドに集まる時に白いものを見なさい。落ち着くから」。

今大会で見られた不思議な光景がそれだ。ピンチでマウンドに集まったナインが話し合いを終えると、一斉に一塁側内野席の上部にある「サニクリーン」の白い看板を見ていた。「冷静になるための1つの方法。ピッチャーが空を見上げて、ひと呼吸おくのと一緒です。それをおもしろおかしくね」。真相は集中力を高める“儀式”。代替出場で快進撃を続けた近江には、独特のリラックス法があった。

小森コーチは、佛教大を卒業後すぐに母校の指導に携わり、16年になった。大阪桐蔭に完敗だったが「粘り強く戦ってくれましたね」と、目を細めた。近江の過去と現代をつなぐ縁の下の力持ち。2度目の聖地決勝も、格別だったに違いない。【只松憲】