大阪桐蔭が盤石の「投手王国」で王道を突き進む。今春センバツ優勝に貢献した最速146キロ左腕の前田悠伍投手(2年)が今夏初登板を4回無失点で8強に導いた。先発がコールされると、場内がどよめいた。

だが、期待とは裏腹に立ち上がりから球が上ずった。「空回りした。自分の投球を少しできなかった」。4回まで毎回、四球を与えたが、要所を締めて無失点。3投手で完封リレーを演じた。投手陣は23イニング連続無失点。今夏は4試合で5人が投げ、31回でわずか1失点に抑え、チーム防御率は驚異の0・29だ。

今秋ドラフト候補の松尾汐恩捕手(3年)も立役者だろう。1回、前田の異変に気づいた。「体がこっちに開いていた」。速球を投げるとき、力んで体が三塁側に傾いていた。2回は、チェンジアップなど変化球を多投させた。「(体が)真っすぐになる。しっかり、いい形でバランスよく投げられる」。前田も深くうなずいた。「かかと重心で、体重が前に乗ってなかった」。司令塔の観察眼も投手の支えになっている。

川原や別所ら投手陣には合言葉がある。「ローボールを徹底しよう」。投手担当の石田寿也コーチ(43)の教えだ。この日の前田は実践できなかったが「悪いなかでどう抑えるか。勉強になった」と話す。投球に試行錯誤を重ね、6月中旬以来の実戦だという。だが、昨秋の明治神宮大会で優勝に導いたV腕の登板で役者がそろった。前田も「思うようにいかなくても0点に抑えられたのが収穫」と胸を張る。投打で死角が見当たらず、王者らしく堂々と前進する。【酒井俊作】