大会屈指のスラッガー、高松商・浅野翔吾外野手（3年）が、負けて伝説を作った。大会NO・1右腕の近江・山田陽翔（3年）から146キロ速球をライナーでバックスクリーンに突き刺し、大会3本目、高校通算67号となる同点2ラン。7回表1死一、二塁では、なんと申告故意四球を受けた。4強進出はならなかったが、最も甲子園を沸かせた怪物は今後、プロ志望届を提出する予定。ドラフト1位候補に挙げる阪神などの熱視線を受け、秋のドラフトを待つ。

快音から一瞬で、甲子園がどよめいた。2点を追う3回表1死一塁。カウント1－1。浅野が、近江・山田の146キロ速球をとらえた。衝撃の一撃は中堅手の背走も許さず、バックスクリーンに飛び込んだ。

「完璧でした」

今大会3発目、高校通算67号は同点2ラン。どよめきの残る甲子園で、浅野が走りながらガッツポーズを決めた。

親交のある山田との初対戦を「めちゃめちゃ楽しかった」と振り返った。5回の第3打席で初球を空振りした。「真っすぐと思ったら、ストンと落ちた。さすがだな、と思った」。だが、ミスヒットは1度だけ。初回は133キロスライダーを左翼線二塁打。5回は138キロのツーシームを左前へ。大会NO・1右腕に対し、4振りで3安打と仕留めた。

すごすぎた。7回表の第4打席で、思わぬ事態が起こる。1死一、二塁での申告故意四球。「あの場面では“さすがにないやろ”と思ってたんで、少しビックリしました」。2点ビハインド。まさか一、二塁を満塁には、と思ったのに…。またまた甲子園が沸いた。

派手なだけの3安打1四球ではない。甲子園の準々決勝、シーソーゲームの3度の得点機すべてに絡んだことに意味がある。1年前までは死球、四球攻めに遭うとイラつき、ボールに手を出した。「雰囲気を悪くしてました」という下級生の頃とは違う。「まずは出塁を目指す考えが、今日の結果につながった」。チームを盛り上げ、仲間の奮起も呼び起こす。長尾健司監督（52）が「キャプテンが引っ張るチーム」と納得する風格も身につけた。

長尾監督が「もう1つ上の世界で、もっと成長してほしい」と後押しする超高校級スラッガーは、今後、プロ志望届を「出します」と明言した。ドラフトでは1位重複指名の可能性もある。

ゲームセットのあいさつ後、山田から「打ち過ぎや！」と声を掛けられた。高松商52年ぶりの夏の4強は逃したが「後悔はないです。甲子園で3試合もできました」。負けても余りあるインパクトを残し、浅野の夏が終わった。【加藤裕一】