大会NO・1右腕は、潔く「負け」を認めた。4強進出を決めた直後、近江・山田陽翔投手(3年)は高松商のスラッガーに声をかけた。「ナイスバッティング。完敗や」。浅野は「ありがとう」と返す。令和の名勝負を繰り広げた2人は互いにたたえ合った。

盟友ともいえる男に、敗退寸前に追い込まれた。2点リードの3回。山田が投じた146キロ直球をライナーでバックスクリーンに被弾。「あの弾道では行かないと思ったけど、軽く運ばれた」。5回にも3安打目となる左前打を許す。2点リードの7回1死一、二塁では、申告故意四球で歩かせた。「試合には勝ったけど、浅野君との勝負には完敗した」。8回途中6失点で降板。右翼で試合終了の瞬間を迎えた。

それでもエースの意地は見せた。今大会3度目となる2ケタ、10奪三振を奪い、甲子園通算108奪三振。早実・斎藤佑樹、駒大苫小牧・田中将大の記録を抜いた。初回の先制打を含む2安打でバットでも勝利に貢献した。小学生の頃に山田を指導した山本康生さん(45)は「負けず嫌いな性格で野球一筋の性格は変わっていない。陽翔はチームで1人突出してうまかったけど、そこで全然だめにならない。一塁まで誰よりも一生懸命走るしね。こうなるのは分かってた」。投打の大黒柱はひたむきさを失わずに、チームを引っ張って、4強に導いた。

センバツ決勝で敗れた大阪桐蔭が敗れ、再戦はならなかった。スラッガー浅野も去った甲子園で、山田が残った。「みんなの力が大きくなっているのを感じている。僕たちの目標は日本一なので。一丸となって勝ち上がりたい」。悲願の全国制覇まであと2勝だ。【竹本穂乃加】

○…2番手の星野世那投手(3年)が好救援した。1点リードの8回1死一、二塁で山田の後を受けた。高松商・浅野を左飛に打ち取るなどピンチを脱し、9回も2死一、二塁をしのいだ。今年のセンバツ決勝では2番手で登板したが、大阪桐蔭を抑えられず5回1/3で14失点。夏の聖地で成長した姿を見せた。試合後には山田から抱きしめられた。「『思い切り抱きしめたる』と言われて抱きしめてもらいました。ずっと負担をかけっぱなしなんですけど、抑えられて心の底からうれしかった」。星野がチームの窮地を救った。