東北108年目の悲願、甲子園の優勝旗が東北の地に渡った。

仙台育英ナインは1時間強の空路ではなく、JR新大阪から4時間以上をかけて陸路で帰郷した。午後2時過ぎ、呪縛のように聞かされた「白河の関」が近づくと、そわそわしながらグーグルマップで何度も確認。ナインを乗せたこまち25号は午後2時19分、福島・新白河駅を通過した。その瞬間、就任5年目で深紅の大優勝旗を持ち帰った須江航監督(39)は、目頭を少し熱くした。

「なにか感慨深いものがありました。新幹線でシュッと駆け抜けていく感じなんですけど、『あ、ここからが東北なんだな』と。僕は埼玉出身ですが東北にいる時間の方が長いので、『歴史が本当に変わったんだ』と思いましたね」

そこから約30分、車窓から初秋の訪れを迎える田園風景をながめながら、仙台駅に降り立った。

仙台駅構内では老若男女問わず、1000人以上もの人垣ができた。優勝盾を抱えた佐藤悠斗主将(3年)ら選手18人が、その真ん中を歩いた。須江監督は「野球好きな人だけの白河の関越えではない。多くの県民や東北の人たちの思いや夢があった」と、あらためて胸を熱くした。

宮城野校舎での優勝報告会では、チアリーダー、吹奏楽部、生徒会の生徒たちから祝福された。指揮官は「持っているものを出し切るぞ、と思わせてくれたのは皆さんのおかげ。球場の雰囲気が仙台育英のときは、不思議に何をやってもうまくいった」と、応援への感謝を伝えた。また、大会歌の「栄冠は君に輝く」にも触れ、「“君”っていうのは、すべての東北の人。すべての人に栄冠が輝いた。多くの人の希望ややる気につながれば」と、喜びを分かち合った。

報告会を終えた後も、午後9時まで地元テレビなどの生出演をこなした。歓喜の熱はしばらく冷めそうにないが、9月17日からは県大会も始まる。10月10日には東北大会も開幕。高校通算74本塁打の佐々木麟太郎内野手(2年)を擁す花巻東(岩手)、甲子園準決勝で激突した聖光学院(福島)など、今度は近県のライバルたちと6県でわずか2校の一般枠を争う。須江監督は「下級生が多いチームだから、この経験をつないで、何が何でも昨年行けなかったセンバツにたどり着きたい。もう、日本一は過去のこと。長期的なことを言えば、この大優勝旗を必ず全員で返しに行って、もう1度つかむんだという思いが強くなっています」。投打の主力7人が残る新チームは、今日24日にもスタート。次は83年の池田(徳島)以来、40年ぶり夏春連覇の大偉業に挑む。【浜本神威】