日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

   ◇   ◇   ◇

ルール違反ではないが、マナー違反だという。明治神宮大会で大阪桐蔭(近畿)の“声出し”が話題になった。20日のクラーク戦(北海道)で投球の間も大阪桐蔭ベンチから大声が飛び続けた。クラーク監督の佐々木啓司から相手ベンチに「いつまで声を出しているんだ」とクレームが突き刺さったようだ。

佐々木は「ピッチャーが投げようとしているときにワー、ワーいうのは野球じゃない。紳士的にやらないとダメ」と主張。大阪桐蔭・西谷浩一は「何かを誘発するような、(走者が)『逃げた』、球種を伝えるとかはダメだと思っている。新チームで一生懸命に声を出しているだけ。それもダメなら僕の勉強不足です」とかわした。

試合後、取材を受けたのは、東都大学野球連盟で審判員の寺尾久。「大学野球の担当だったけど、ちょうど控室に自分しかいなかったので対応したよ」。日大三-立正大と野球エリートの道を進んだ拙者のいとこ。若い頃は一緒に湘南で暴れたものだが、今は選手から敬意をもたれる審判業にいそしんでいる。

今年8月、真夏のオープン戦で4試合続けてグラウンドに立って“鉄人”と称された久と意見を交わした。神宮大会は高校・大学ともブラスバンドの入場は禁止されているから、お互い声が通りやすい環境なのは確かなようだ。

「大学、社会人では、ピッチャーが投げるときの声出しは止めましょうと申し合わせができている。でも高校野球は大きな声を出さないと、逆に『元気がないぞ!』と叱られかねないから難しい」

例えば“声だし”でいうと、二塁に走者を置いた場面では、ベンチからはNGだが、二塁、遊撃手の動作をみながら注意を払うランナーコーチが「ショート、近いぞ!」と声を飛ばすのは許される。

「そもそも声によってサインを伝達したり、ランナーを置いた場面で『ゴー! ゴー!』と叫んで、それにつられた投手のボークを誘うのは止めましょうと内規にはある。ただ高野連がどう考えるかだけど、今回のケースを含めて、1つ1つの場面を規則で明文化して縛るのは容易ではないよね」

今回の一件で審判サイドの見解は「ベンチの声出しによほど問題があれば審判が注意を与えていた。またクラークの監督はまず球審に大阪桐蔭に注意を促すべき行動をとったほうがよかった」と解説。あくまでもマナーという“行儀”の問題ということで落着しそうだ。(敬称略)