ピンと張り詰めた空気の中、龍谷大平安の4年ぶり42度目のセンバツ出場が発表された。同校OBで昨年4月から指導に携わる川口知哉コーチ(43)は「原田監督が初めて甲子園に行かれた時は僕が現役の時。そこからの縁ですし、恩返ししたいというのもずっとあった。僕が来た意味というか、第1段階の壁はクリアできたと思う」と、安堵(あんど)の表情を見せた。

川口コーチにとって、立場を変えた、26年ぶりの聖地になる。97年に大会屈指の左腕として夏の甲子園準V。4球団強豪の末、オリックスへドラフト1位で入団するが、力を発揮できず04年に引退した。その後は女子プロ野球の指導者などを経て、現在母校で指導を行っている。

原田英彦監督(62)は「彼は引き出しをたくさん持っている。挫折をたくさん経験してきている子はすごく貴重なんです。栄光だけでは絶対だめ」と、頼もしさに目を細める。

恩師の言葉通り、これまでの経験が指導に生きている。アドバイスのタイミングに気を使う。時には欠点に気づいてもその場では伝えない。部員の悪い部分を把握し、性格なども考えながら言うべき時を考えて指導するという。

「言うタイミングは(選手が)聞くタイミングでもある。言っても聞かないタイミングってどうしてもある。調子いい時は人の話はあまり聞かないし、その時は触らない」。

過去に女子プロ野球4球団で指導した川口コーチ。助言の方法やあり方を考えた経験が指導につながっている。

原田監督にとっても大きくなって帰ってきた教え子だ。93年の監督就任以来、初の甲子園出場に導いてくれた。「その時は感慨深いというより、楽しくて楽しくて。部員が21人で、僕がフリーバッティングで放ったり守ったりして。すごく楽しい思いだけだった」。

あれから四半世紀。同じ指導者の立場で「HEIAN」のユニホームを着て、教え子と聖地に立つ。「(そうなることは)全く想像つかなかった。おそらく甲子園に入った瞬間、なんとも言えない気持ちになる」と目を赤らめた。

今大会では当時の甲子園決勝で敗れた智弁和歌山も選出。同校を率いる同学年の中谷仁監督(43)と、指導者として再戦する可能性もある。

川口コーチは「僕、負けているんで、もう負けたくないですよね。でも、勝った負けたを繰り返していきたい。それが切磋琢磨(せっさたくま)じゃないですか。そういう関係性でありたい」と、力を込めた。

熱戦の記憶を胸に、新しい勝負が始まる。【波部俊之介】

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