山梨学院が報徳学園(兵庫)を逆転で破り、山梨県勢では悲願の甲子園初優勝を果たした。

4回に2点を先制されたが、5回に佐仲大輝捕手(3年)のチーム初本塁打を含む打者10人で6安打7得点で逆転した。吉田洸二監督(53)は清峰(長崎)時代の09年春に続く2度目の優勝。エース林謙吾投手(3年)は118球で完投。今大会は6試合のうち4試合に完投し6勝はセンバツ史上最多を記録した。スローガンは「俺たちはチャレンジャー」。地元甲斐の戦国武将、武田信玄が掲げた「風林火山」のごとく強敵を撃破し、チャレンジャーから頂点にまで上りつめた。

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9回2死、走者無し。中飛を星野がキャッチした。全員がマウンドに駆け寄り、歴史的な瞬間を分かち合った。開幕試合から6勝での優勝は史上初。どのチームよりも、甲子園で野球をした時間は長かった。

「俺たちはチャレンジャー」が合言葉だ。同校は昨年、春夏の甲子園、明治神宮大会に出場。すべて初戦で敗れた。全国で勝てない現実。吉田監督の長男、健人部長(26)は、これまでの「王者の風格」というスタンスから「挑戦者」として挑むよう、意識改革に着手。全員のジャージーの背中に「俺たちはチャレンジャー」を刻んだ。

頑張れたのは仲間がいたから。昨年末には清峰(長崎)時代から監督名物の丸太ダッシュトレを実施。7キロの丸太を抱え280メートルを往復する。通常20本のところを65本、2時間半走り続けた。「出し切れ!」と励まし合う声が響いた。最後の1本を終えると全員が「よっしゃー!」と倒れ込んだ。進藤は「今までで一番つらかった」。言葉とは裏腹に、その表情はすがすがしかった。

練習の後は、みんなで大きなお風呂場でカラオケ。今大会のテーマソング「アイラブユー」を大熱唱した。サビの「どんな言葉が 願いが景色が 君を笑顔に幸せにするだろう 地図なんかないけど歩いて探して 君に渡せたらいい」で絶叫するのが十八番だ。

大舞台を楽しんだ。決勝前の円陣では、ムードメーカーの岩本が盛り上げた。WBC侍ジャパン大谷の「憧れるのはやめましょう」の声出しをまねて緊張をほぐした。進藤は「次は追われる立場になってしまうけどそれでもチャレンジャーの気持ちを忘れずに甲子園に戻ってこられるようにチーム全員で一丸となって頑張りたい」。夏も山梨旋風を巻き起こす。【星夏穂】

○…山梨に、明日は雪が降ります!? 守備に定評のある9番伊藤が、今大会初打点を挙げた。5回1死二、三塁、2点適時打を放った。吉田監督からは「奇跡が起きた」。チームメートからは「明日、雪が降るんじゃないか?」と突っ込まれた。実は持ち味の守備で、4回に強襲の安打を捕れず失点につながっていた。「自分で取り返そうと思っていた。ホッとしました」と喜んだ。

▽山梨学院・中原義虎応援団長(2年)「みんなが笑顔で終わってよかった。(5回の猛攻は)これがチームの強み。いつも通り守備もよくて、粘ってビッグウエーブを起こしてくれました」

▽樋口雄一甲府市長(アルプスで応援)「今日は、プレゼントをいただいた気持ち。感激で言葉が出ません。吉田監督が笑顔で指導されていることで、選手たちが楽しくできていると思う。県内の子どもたちの目標になりますし、機運が盛り上がると期待したい」

▽山梨学院吉田正校長(アルプスで優勝を見届け、涙)「1点差に泣いてきたチームで、数年間の幸せの貯金をいただいた気持ち。こんな形で勝てるなんで、夢のようです」