3月に日大三(西東京)の監督を退任した小倉全由氏(66)が、スポーツキャスター長島三奈さん(55)との特別対談で、日刊スポーツ評論家デビューした。

6月中旬、数々の名勝負を繰り広げた神宮球場にスーツ姿で登場。プリン、キムタク、甲子園-。指揮官時代の取材を契機に親交を深めてきた長島さんとの思い出や、高校野球の魅力や未来など、夏本番を前に語り尽くした。【取材・構成=保坂淑子】

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神宮球場、三塁側ファウルゾーン。からっとした青空の下、グラブを手にした2人が向き合った。雑談しながら、笑顔でキャッチボールを始めた。対談前の緊張が、ほぐれていった。

-いよいよ夏がやってきます

長島 今日の空は夏の雲! 球児の夏がきた~って思いますね。

小倉 自分はユニホームを脱いで最初の夏。でも、夏に野球ができるのは、いくつになってもうらやましい。今年は、特にそう感じるのかもしれないね。

長島 高校野球の見方は変わりそうですか?

小倉 熱さは変わらないですね。力を抜いている選手がいたら「おまえら何やってんだ。今しかできないんだぞ」って怒鳴りたくなっちゃうかもね(笑い)。

2人の出会いは24年前、場所はやっぱり甲子園。

小倉 99年、日大三の監督として初めて夏の甲子園に出場した時でしたよね?

長島 甲子園練習で一塁側のベンチ前で見ていたんです。三高の中に大人びた選手がノックを受けている。大きな声を出して明らかに選手じゃない!?それが小倉監督でした(笑い)。

小倉 自分は現役時代、甲子園に出場していないのでうらやましくってね。

長島 一番キラキラしていました(笑い)。

長島さんはキャスターとして日大三を追った。全国制覇した翌年の02年には、誰よりもグラウンドに足しげく通った。その夏、西東京大会の準決勝で敗れた。ここ、神宮球場で。

長島 春の関東大会でチームが負け、そこからはい上がって夏の全国制覇。負けてチームが強くなる姿。また、翌年のチームが全員で優勝旗を返しに行こうと頑張る姿が印象的でした。

小倉 あの代は私も印象的でしたね。プレッシャーは相当だったと思います。でもね、夏負けて泣いている選手たちを見た時、コイツら、うらやましいなぁって思ったんですよ。

長島 でも、小倉さんが一番熱いですよ。勝ったら心から選手をたたえ、負けたら勝たせてやれなかったと心で泣いて。ここまで選手に情熱をかけて生きている方はいないです! 特に印象的だったのが「プリントーク」です!

長島さんが笑顔で明かしたのは、練習で怒った選手を寮の自室に呼び、プリンを食べさせながら話をする小倉流の指導法だった。

長島 選手を包み込んで導いているのが小倉さんの指導。お互いに本音で裸の心でぶつける。「プリントーク」って小倉さんだけですよ(笑い)。

小倉 自分が寂しがり屋なんですよ(笑い)。甘いもの食べさせて頑張ってくれりゃあいいか! って。どんなに練習で怒った選手でも、寮の廊下で会うと絶対に声をかけますから。ケガはどうだ?ってね。

長島 高校野球って、失敗した時、負けた後に、選手とどんな時間を過ごすか、どんな言葉をかけるかが大事で。たった3年間ですが、1人の人間の人生に大きな影響を与える。人生の道しるべみたいなもの。本当にどうしたら監督のような生き方ができるんだろう、と。今でも不思議です。

長島さんが「新入生のどこを見て育てようと思うのですか」と聞いた。小倉氏はあるイケメン芸能人の名前を挙げて答えると、最後は胸をたたいて目尻に優しいしわをつくった。

小倉 自分が選手にいつも言うのは「裏表のない男でいろ」と。どこを見られても恥ずかしくない。それが一番かっこいいんだ。

長島 監督そのものじゃないですか!

小倉 いつも例に出すのは、キムタク(木村拓哉)と俺を比べたら、見た目はそりゃあキムタクがかっこいいだろ? でもな、こっちなんだぞ、ってね!

長島 ハイ、断トツでカッコいいです!

小倉 どこ見られても恥ずかしくない男になれ。練習も一生懸命やれる人間を作る。人間としても生活面でも、合宿生活でも。

長島 だから、みんな監督を好きになるんですね。

-最後に。おふたりが考える高校野球の魅力とは

小倉 自分は「高校野球=甲子園」ですよね。甲子園があるから頑張れるし、甲子園があるから成長する。その過程で、監督と選手の絆ができる。人間ができていくと思うんです。甲子園に出ているからスゴイ監督じゃない。西東京大会でも選手と一緒に涙を流している監督を見ると熱心だなぁ、と思いますから。

長島 以前、5人だけのチームを取材したことがあって。1勝もできずに終わるんですが、1点取れて「勝ちたいと思わせてくれた。ありがとう」と言って終わるんです。高校野球ってこれだと思いました。いろんなものを犠牲にしながら野球に情熱をつぎ込み、感謝の気持ちで終われる。

小倉 指導者もそう。頑張る姿が当たり前になることがあるんです。怒った翌日、ちゃんとグラウンドに出てきてくれることは当たり前じゃない。指導者も感謝の気持ちを持てば、突き刺すようなしかり方にはならないはず。そんな人間関係が必要です。

長島 感謝の気持ちが自然と言葉に出る。美しい心、瞬間に出会える。だから毎年、また球場に足を運ぶんです。高校野球に出会っていなかったら…と考えると怖いくらい。空気と水くらい大事かも(笑い)。

小倉 本当、選手たちには悔いなく夏を送って欲しいですね。野球はエラーが出て当たり前。練習の発表の場だと思って、思い切ってやって。結果が悪かったら次の打者が助けてくれるよ。チームプレーなんだから。自分たちの練習を信じて頑張ってください。

(取材協力・日本青年館)

◆小倉全由(おぐら・まさよし)1957年(昭32)4月10日、千葉県生まれ。日大三野球部では3年夏は背番号「13」の控え選手。5回戦で敗れ甲子園とは無縁だった。日大進学後は4年間母校のコーチを務めた。81年12月に関東第一の監督に就任。85年夏同校初の甲子園出場。87年センバツ準優勝。97年日大三の監督に就任。99年センバツで日大三の監督としては初の甲子園出場。01年夏、初優勝。11年夏、2度目の全国制覇。23年3月、定年を機に退職し監督を勇退。家族は妻と2女、孫が1人。

◆長島三奈(ながしま・みな)1968年(昭43)6月3日、東京都生まれ。田園調布雙葉中・高をへて、91年日大文理学部卒。同年テレビ朝日入社。スポーツ局で記者、ディレクターとして勤務。96年10月から報道局。「ニュースステーション」「熱闘甲子園」「長島三奈の熱闘!スポーツM18」などでキャスターを務める。00年3月に退社し、01年2月から契約社員。14年2月からフリー。父は巨人の長嶋茂雄終身名誉監督。

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