<高校野球東東京大会:足立新田13-3かえつ有明>◇17日◇3回戦

 浪江野球部の思いが、足立新田・広田拓也(3年)のバットに乗り移ったようだった。1打席目に左前打、2打席目に左中間二塁打、3打席目は右中間三塁打。「自分でもなんでこんなに打てたのか分からない。ずっと足が震えてました」。チーム最多の3安打3打点。捕手としても3投手をリードし、かえつ有明に5回コールドの圧勝で東東京3回戦を突破した。

 前日、携帯の速報サイトで浪江の敗戦を知った。ほんの4カ月前まで通っていた高校だ。スタメン起用を告げられた夜、幼稚園からずっと一緒だった佐藤大悟主将(3年)に電話をかけた。甲子園での再会を約束していた親友は、受話器の向こうで泣いていた。「浪江の分まで、お前だけでも甲子園に行ってくれ」。つられて涙がこぼれた。

 福島第1原発がある双葉町出身。隣町の浪江野球部の正捕手だったが、原発事故により転校を余儀なくされた。「本気で甲子園を狙っていた。だから全然受け入れられなかった」。引っ越した都営住宅の近くにあったのが足立新田だった。持ち前の運動神経で、入部から4カ月足らずながら、昨夏8強の強豪チームの背番号「12」を託された。

 家族も失業したが、福島第2原発の下請けで働いていた父勉さん(42)は千葉に、同第1原発で働いた兄一希さん(19)は埼玉に職を得た。浪江時代の持ち物は、一時帰宅で持ち帰った練習用ズボンと、父母会が部室から持ち出してくれたグラブだけ。「試合に出られるのも、勝って喜べるのも新田高校のおかげ。2校分の思いを背負ってプレーしたい」。広田の打球には、友の涙と多くの感謝が詰まっていた。【鎌田良美】