<全国高校野球選手権:白樺学園3-2鳥取商>◇9日◇1回戦

 悲願の甲子園初勝利だ!

 58年創部の北北海道代表、白樺学園が鳥取商(鳥取)を延長11回の末、下した。代役エースの川越翼中堅手(3年)が150球の熱投で完投勝利。9回無死三塁の絶体絶命のピンチをしのぎ、主戦の小林航投手(3年)の右肩痛で回ってきた大役を果たした。打線も出場全員の14安打で、十勝勢としては65年帯広三条以来、46年ぶりの白星。2回戦は14日第2試合(午前10時30分開始予定)で智弁和歌山(和歌山)と対戦する。

 甲子園初勝利をグッとかみしめた。白樺学園の川越は、最後の打者を三振に取り、右手でグラブをポンポンとたたいた。「気持ちで投げきりました」。派手なガッツポーズも雄たけびもない。暑い暑い甲子園で、クールに150球の熱投を締めた。戸出直樹監督(35)も「川越がよく投げてくれた。それに尽きる」と最大級の賛辞だ。

 エース小林の右肩痛で巡ってきた今夏の初先発。立ち上がりは重圧で制球が大きく乱れた。「力を抜いて投げたら良くなりました」。5回まで毎回走者を背負ったが尻上がりに制球力がアップ。直球は初回に自己最速の140キロをマークするほど走っていた。

 だからこそ、絶体絶命のピンチも力勝負だった。「真っすぐで押せました」。2-2の同点に追い付かれた9回裏、なお無死三塁のサヨナラの窮地。威力の衰えない直球で攻め、後続3人を抑え、三塁走者をくぎ付けにした。「小林が投げられない分、自分がエースと思って投げた」。気持ちも乗っていた。

 マウンド上ではポーカーフェースだが、感情をむき出しにしたことがあった。今春の地区予選前、背番号10を与えられたときだった。大内康至部長(31)に一言だけ「悔しいです」。新チーム発足時の昨秋は背番号1。小学3年から投手一筋の男にとっては屈辱的だった。大内部長は「あんな感情を持っているとは思わなかった」と振り返る。

 エースの座を譲った小林は、昨秋に投手に転向したばかりだった。最後の夏、奪い返そうとしたがかなわなかった。「小林が自分たちのエース、自分はカバーできれば」と気持ちは切り替えた。背番号も10ではなく8が与えられた。北大会終了後、小林の右肩痛のことは知っていた。「準備はしていました」。憧れの舞台で、見事にエースをカバーして見せた。

 代役エースに、守備陣が北大会準々決勝(旭川西戦)以来、今夏2度目の無失策でもり立てた。同点にされた直後の5回2死一、二塁。ライナー性の打球を左翼小原が前進してダイビングキャッチし、勝ち越しを許さなかった。「暑さのせいか、足がフラフラしていたけど必死だった」と笑顔で汗をぬぐった。

 2度目の出場でつかんだ春夏通じての甲子園初勝利は、十勝勢46年ぶりの快挙となった。戸出監督は試合後、マウンドを守りきったヒーローに声を掛けた。「お前、男だな」。すると川越はニヤっと表情を崩した。次の智弁和歌山戦でも頼れる男になるはずだ。【木下大輔】