<全国高校野球選手権:作新学院3-2仙台育英>◇19日◇3回戦

 18年ぶりの8強進出は届かなかった。仙台育英(宮城)は作新学院(栃木)に惜敗。今大会2戦で27安打14得点と好調だった打線が沈黙し、わずか5安打に抑えられた。2年前、開星(島根)戦の逆転劇を見て全国制覇を約束した選手たちは、涙が止まらなかった。

 誰もあきらめていなかった。1点を追う9回2死、渡辺郁也投手(3年)が左打席に入る。「1人ランナーが出れば、奇跡は起きる」。それだけを考え、5球目の内角シュートを振り抜いた。しかし打球は、力なく遊撃手の前へ。それでも「まだ終わってない」。投手には禁止されている執念のヘッドスライディングを見せたが、あと1歩届かなかった。「1点が返せなかった。力不足です」。2回に自ら同点本塁打を放ったエースは、高校最終打席を悔やんだ。

 最後まで何が起きるかわからない。2年前の夏、身をもって感じ、選手たちは変わった。開星戦で2点差の9回2死走者なしから追い上げ、相手中堅手の落球で逆転した。ベンチ入りしていた渡辺は「鳥肌が立った」。アルプスで応援していた当時の1年生は全員涙を流し、抱き合って喜んだ。それから「つらくてグラウンドに行くのが嫌だった」という練習に対する姿勢も変わる。早坂和晋右翼手(3年)は「どんな簡単なフライも両手で捕る」と、1つずつのプレーに気持ちを込めるようになった。

 幾度となく訪れたピンチも、強い信頼関係で切り抜けた。2-2の6回1死三塁。渡辺は「打たれても、守ってくれる」と低めを狙って投げ続ける。すると前進守備の柏木勇人二塁手(3年)が強烈なゴロを止め、本塁でタッチアウトにした。7回には、左中間への大飛球を星隼人左翼手(3年)が背走しながらキャッチ。追加点を阻止した。毎回走者を背負うエースを野手が支え続けた結果が、10安打3失点という数字に表れていた。佐々木順一朗監督(52)も「渡辺を中心によく守った」と健闘をたたえた。

 東日本大震災やチームの空中分解など、試練を乗り越えてきた3年生の夏は終わった。奇跡の開星戦のあと「甲子園に行って勝とう」と約束した27人は、誰ひとりやめなかった。小杉勇太主将(3年)は「もっとみんなと一緒にやりたかった」と号泣。裏方として支えてきた宮下礼記録員(3年)は「これで終わりなんて寂しすぎる」と、おえつが止まらなかった。全国制覇の夢はかなえられなかった。しかし、かばんにしまった甲子園の土と、一緒に戦った仲間は最高の宝物になった。【鹿野雄太】