<全国高校野球選手権:花巻東7-6明豊>◇21日◇準々決勝

 今春センバツ準Vの花巻東(岩手)が、夏は県勢90年ぶりの4強進出を決めた。エース菊池雄星投手(3年)は最速149キロで4回まで完全投球を続けたが、5回途中、背中の痛みを訴え緊急降板した。降板後はベンチからナインを鼓舞し、延長10回7-6で明豊(大分)に勝利した。菊池は試合後に兵庫・尼崎市内の病院でエックス線検査を受け、「背筋痛」と診断され、23日の準決勝登板は微妙になった。

 菊池にいつものハキハキとした言葉はなかった。試合後、背中にアイシングをしながら、イスに座って取材を受けた。目には涙が浮かんでいた。悔しさと、仲間への感謝の気持ちが入り交じっていた。

 試合前から背中の痛みがあった。今月2日に関西入りした直後から違和感を覚え、17日の2回戦の横浜隼人戦の翌日には、痛み止めの注射を打っていた。「かなり痛かったけど、投げるしかなかった」と、この日の明豊戦で先発したが、試合中盤には状態が悪化。菊池は限界を感じ、5回2死一塁のピンチで猿川に交代した。

 マウンドを降りた菊池は左翼に回った。だがプレーできる状態ではなく、続く6回の打席で代打を送られベンチに退いた。

 菊池

 歩くだけでも痛いし、しゃべるだけでも痛かった。それでも、声を出すしかなかった。みんなを不安にさせたくなかった。

 ベンチではナインを鼓舞し続けた。8回に猿川が2本の適時打を浴び4-6と逆転されたが、9回に無死二、三塁のチャンス。ここで菊池は伝令役としてグラウンドに飛び出し、打席の横倉怜武一塁手(3年)に「今までやってきたことをすべて出すぞ」と激励。横倉の中前へ抜ける起死回生の同点2点適時打を生んだ。そして延長10回には川村悠真主将(3年)の決勝中前適時打で、夏の甲子園では岩手県勢で19年の盛岡中以来、90年ぶりとなる4強進出を決めた。

 菊池は「ベンチもスタンドも、心が1つになって勝てた」と劇的な勝利を振り返った。しかし、悲願の日本一へ不安が残った。菊池は試合後、兵庫・尼崎市内の病院で検査を受け、骨には異常なく「背筋痛」と診断された。「ここまできたら優勝しかない。あと2試合なので、壊れても投げるしかない」と話したが、23日の準決勝(中京大中京-都城商の勝者)の登板は微妙な状況だ。

 投手にとってスピードを生む背筋は重要で、打っても負担はかかる。菊池は大会本部を通じ「痛みがあったので、念のため診てもらいました。明日(22日)は投げずに、体のケアに専念します。準決勝については監督と相談します」とコメントした。今秋のドラフト1位候補で、将来有望な大型左腕。大事をとって登板を回避する可能性もある。またマウンドに立てるのか-。執念の4強進出も、怪物がピンチだ。【由本裕貴】