<高校野球神奈川大会>◇28日◇準決勝

 神奈川決勝は史上5度目となる横浜VS東海大相模の名門対決になった。「平成最弱」とうたわれるノーシード横浜は、横浜隼人に1回に5点を先制されながら16安打で逆転、9-5で昨夏代表を下した。今大会4試合目の逆転劇で、2年ぶりの甲子園に王手をかけた。

 横浜の朝は早かった。準決勝開始約4時間前の午前7時、同校グラウンドのマウンド付近には65歳のベテラン渡辺元智監督が立っていた。「久しぶりでしたよ」と、主力選手を次々と呼び止め、黙々と打撃投手を務めた。ポイントは横浜隼人・今岡の低めに逃げるスライダー、シンカーの見極め。今大会初めて、疲れやすい体にムチを打って約50分間、ストライクゾーンのギリギリに投げ続けた。

 こんな姿に「逆転の横浜」が燃えた。1回に5点を先制されたが、あきらめない。ボールゾーンに沈むシンカーを見極め、直球に的を絞った。試合前まで打率1割6分7厘だった5番荒木翔平外野手(3年)は4安打。6回2死一塁では狙い通り、直球を左中間へ適時二塁打を放った。「監督が緩急をつけて投げてくれたおかげ」と感謝した。

 レッドソックス松坂のような絶対的なエースはいない。横浜筒香のようなスラッガーも不在。大石竜太主将(3年)は「横浜始まって以来の弱さと言われる」と言う。それでも16安打を放ち、今大会4度目の逆転勝ち。ノーシードから挑む夏は5年ぶりで、優勝すれば81年以来29年ぶりになる。

 渡辺監督は「今年は強くないから強い。欲がない」と分析する。WBC日本代表を理想として、つなぎ重視の打線を「ピストル打線」と命名。「今の子どもたちを自分たちの時代に合わせるのは難しい。私が気質を理解しないといけない」と歩み寄った。

 練習は厳しく、試合は楽しく。渡辺監督は「40年以上やってきて、やっと分かってきた」と言う。1年生から唯一のレギュラー大石は「今は失敗しても、笑顔で迎えてくれる」と変化を感じる。5点先制された直後の指示は「忘れていいから、楽しく1点ずつ取れ」。そんな雰囲気も逆転劇の一因になった。

 酷暑の夏、決勝は8試合目になる。指揮官が挙げた大一番のポイントは「普通に戦うこと」。甲子園春夏通算5度の優勝を誇る言葉に「大逆転V」の可能性が詰まっていた。【前田祐輔】