大谷翔平のエンゼルス入りが決まる前、ビリー・エプラーGMが大谷へのプレゼンで語ったことの1つが、球界屈指の選手でありチームの顔であるマイク・トラウト外野手と大谷を「スティフン・カリーとケビン・デュラント」の関係に例えたことだったという。

 カリーとデュラント。今の米プロバスケットボール界でスター中のスターと呼べる2人だ。かつてのNBAでいえばマイケル・ジョーダンとマジック・ジョンソン、メジャーリーグでいえば一時代を築いたヤンキースのデレク・ジーターとアレックス・ロドリゲスか。日本でいえば同年代でともに球界を引っ張ってきたイチロー外野手(マーリンズFA)と松井秀喜氏だろうか。とにかく双璧の存在というわけだ。

 そんな2人が昨年、チームメートになった。FAとなったデュラントが、カリーが在籍するゴールデンステート・ウォリアーズに移籍してきたのだ。両雄並び立たずということわざもあるように、最初は、この2人が果たしてうまくやれるのかという懸念が周囲にあった。しかしふたを開けてみると、そんな懸念はまったく必要なかった。チームメートになる前、カリーはデュラントに直接メールを送り「誰が一番有名か、誰がチームの顔か、誰が一番シューズを売るかなど関係ない。おまえが必要だ」と移籍を説得したという。大スターというのは自分のエゴを出しがちだが、カリーとデュラントにはそんなものはなく、ただ互いに尊重し信頼し合って、高みを目指す最高のコンビとなった。

 エプラーGMは、このカリーとデュラントのコンビを引き合いにして、大谷とトラウトが、どう高め合い、ともに戦い、勝利をつかんでいくかという展望を熱く語ったそうだ。トラウトは5拍子そろったメジャー最高の選手と評されるスターだが、目立ちたがる性格ではなく黙々と自分のやるべきことをやるタイプ。カリーとデュラントのような関係を築く相手として、メジャーの球界でこれ以上の適任はいないだろうという選手だ。入団からエンゼルス一筋で、20年まで長期契約を結んでいるが、チームはこの数年ポストシーズンから遠ざかり、他球団からは「トラウトをトレードに出さないのか」という問い合わせが何度も入っていたという。

 だがエプラーGMはそんなオファーをかたくなに拒み、トラウトのいるチームで戦力を整える日を思い描き、機が熟するのを待った。大谷を獲得した今オフは、同GMにとって目標に近づく第1歩だったのではないだろうか。現在は補強も着々と進み、来季以降が楽しみなチームとなった。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)