ドジャースの先発左腕・柳賢振(32)が今季、圧倒的な安定感をみせ話題を集めている。メジャー6年目、15年には左肩を手術をして1年を棒に振り、その後のシーズンも故障を繰り返してきた同投手だが、完全復活というよりは、全盛期を迎えているのかと思うほどの投球だ。

5月の成績は特にすさまじく、6試合に登板し5勝0敗、防御率0・59をマークしてナ・リーグの月間MVPに輝いた。現在、勝利数と防御率で両リーグトップを走り、7月のオールスター戦で先発投手を務める可能性が取りざたされているだけでなく、今季のサイ・ヤング賞候補との声も出始め、ドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長も「今、彼がサイ・ヤング賞級の投球をしているのを、我々は目の当たりにしている」とコメントしたほどだ。オールスターの先発が実現すれば、アジア出身投手では95年のドジャース野茂英雄氏以来となる。

30代に入ってからここまで尻上がりに調子を上げるのも異例だが、柳賢振のさらに異例なところは、その調整法だ。先発投手というのは登板間にブルペンで投球練習を行うのが普通で、通常の中4日登板なら登板後の2日後にブルペンに入るケースが多い。だが柳賢振は、ブルペンでの投球練習を一切しないという。ロサンゼルス・タイムズ紙のインタビューで「ブルペンでの投球練習をしなくても、まったく何も困らない」と答えている。

故障が多いこともあり、登板間は肉体の回復に重点を置き、例えば握りを修正したいときは、キャッチボールをする間にやってしまうという。速球は145キロ前後でコントロールが生命線というタイプの投手にもかかわらず、登板が常にぶっつけ本番のようなものというのは驚きだ。しかも昨今のメジャー球団は投球練習にもハイテク機器を導入し、球の回転数などを測りながら常に微妙な修正を加えたり調整したりするという細かい作業をすることが当たり前になりつつある時代。そんな環境にあって、一切ブルペンに入らず誰よりも結果を出しているのだから、その異色さが際立つ。

ただしメジャーは登板間隔が短い上に「投げる=消耗」という感覚なので、疲労が取れそうにないときはブルペンでの投球練習を回避する投手が少なくない。ドジャースとヤンキースでプレーした黒田博樹氏(44)もかつて、登板間の投球練習をせずに試合に臨んだことがあったし、ヤンキース田中将大投手(30)も、投球練習を行わずに次の登板に臨むことがある。数多く投げて調整することに長年慣れてきた日本人投手にとっても、それが有効な場合もあるので、要は慣れなのか。柳賢振の場合は、プロになった10代の頃からその調整法だそうだ。