今オフのFA市場は動きが鈍すぎて、代理人たちが泣いているという。

オフシーズンは数年前から動きがスローになり、大物選手でもキャンプイン直前まで所属先が決まらないことが珍しくなくなっていたが、コロナ禍で多くの球団が緊縮財政となった今、その流れがさらに顕著になった。米スポーツの契約に関するデータベースサイト「Spotrac」に掲載されている今オフのFA選手452人中、キャンプインまであと5週間という1月6日時点で契約が決まっているのは129人。そのうちメジャー契約を得られたのは34人しかいない。

FAランキング上位のバウアー投手(レッズFA)、リアルミュート捕手(フィリーズFA)、先発投手の中でランキング2位とされる田中将大投手(32=ヤンキースFA)ら、トップクラスのFA選手は軒並み未契約。すでにメジャー契約が決まっているのは、FAの格付けで中クラスの選手だ。中クラスでは複数年契約を得られる選手が少なく、契約が決まっている34人中27人は単年契約。契約交渉に当たっている代理人は、各球団が昨オフまでとは次元の違うレベルであまりに補強に消極的過ぎると嘆いているそうだ。

この状況では、ポスティングシステムでメジャーに移籍することも厳しい。日米間の現行のルールでは、ポスティングの公示期間が日本時間11月2日から12月6日まで。今オフはコロナ禍でNPBのシーズンがずれ込んだため11月8日から12月12日まで申請期間が変更されたものの、期限ぎりぎりに申請したとしても交渉期限は30日間なので、FA選手の大半がまだ未契約で球団が活発に補強に動いていない時期に契約交渉をしなければならない。日本ハムからポスティングシステムで移籍を目指した西川遥輝外野手(28)は交渉不成立でチーム残留となったが、交渉期間がもっと遅ければ、結果も違っていた可能性がある。

問題なのは、オフシーズンのFA市場の遅い動きは、コロナ禍から経済が回復しても簡単には元に戻らないかもしれないということ。今は選手の評価にデータが重視されているため、各球団のGMらは、狙った選手が獲得できなければ、データで同等の指標を示す選手にすぐに狙いを切り替え、特定の選手に執着することが少なくなったという。その結果、獲得競争もあまり起こらず、動きの少ないオフシーズンとなる。MLBと選手会は今秋に新労使協定を結ぶことになるが、次の協定ではオフのこの重苦しさを解消する策を講じてほしいものだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)