エンゼルス大谷翔平投手(28)とヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手(30)のMVP争いは、史上屈指のハイレベルな戦いといわれている。米メディアでは論争も白熱しているが、どちらが選ばれても後世まで議論が続く賞レースになることは確実な情勢だ。

これまでも、後々まで議論が続くMVP争いはいくつもあった。古い例ではア・リーグの1941年、テッド・ウィリアムズ(レッドソックス)とジョー・ディマジオ(ヤンキース)の争いがそうだ。ウィリアムズは打率4割6厘で首位打者、37本で本塁打王と2冠に輝き、得点、死球、出塁率、長打率、OPSとあらゆる打撃部門で1位にランクされたが、MVPに輝いたのはディマジオの方だった。獲得したタイトルは125打点で打点王の1冠だけだったが、このシーズンに達成した史上最長記録の56試合連続安打のインパクトが強かった。さらに所属のヤンキースがリーグ最高勝率の101勝53敗だったことも有利に働いたとみられている。

1995年には、ブレーブスのグレッグ・マダックス投手が19勝2敗、防御率1・63の投手2冠でサイ・ヤング賞に選出され、WARも圧倒的だったがMVPでは得票3位に終わった。選出されたのはレッズの遊撃手バリー・ラーキンで、リーグ2位の51盗塁をマークし守備の貢献は大きく打撃は勝負強かったが、打率はリーグ6位の3割1分9厘、本塁打は同10位にも入らない15本、打点も66と、平凡といってもいい数字だった。

もう1つ思い出されるのは、2004年のア・リーグMVPだ。選出されたエンゼルスのウラジーミル・ゲレロ外野手(ブルージェイズのゲレロの父)は打率3割3分7厘、39本塁打、126打点でリーグ最多の124得点と申し分ない打撃成績だったが、守備に難がありWARは5点台と低かった。このシーズンのア・リーグWAR1位はマリナーズのイチロー外野手で、fWARは7.1、bWARは9.2と突出していた。打率3割7分2厘を打ち、ジョージ・シスラーを抜いてシーズン最多安打記録を更新する262安打を放つなどインパクトもあったはずだが、MVPは得票7位に終わっている。そのため米国野球ファンのコミュニティーの間では「なぜイチローにもっと上位の票が入らなかったのか」という議論が、たびたび持ち上がってきた。

俊足巧打で守備の名手であるバーキンが選ばれた年があったかと思えば、守備には難があるがパワーが重視される年もあるなど、MVP選出の歴史を振り返ると選出基準にムラを感じる。この10年くらいはfWARのトップとMVP受賞者がほぼ一致しているので、2000年代初頭以前とはその点でも変わっている。

大谷とジャッジ、今年は果たしてどんな結果となるのか。投票者がどんなロジックで1票を投じるのか、注目したい。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「水次祥子のMLBなう」)