「二刀流」と言えば、エンゼルス大谷翔平投手(25)の代名詞ですが、ひそかに高いレベルで「リアル二刀流?」を続けている選手がいます。

ドジャース前田健太投手(31)が23日(日本時間24日)のエンゼルス戦で右前打を放ち、打率を2割9分4厘まで引き上げました。カウント0-2と追い込まれながら、「スライダーを頭に置いて」(前田)、時速150キロの速球をはじき返したのですから、まさにアッパレでした。名門PL学園時代は「4番投手」として活躍し、広島時代も打撃センスには定評がありましたが、今季はさらに本腰を入れて打撃に取り組んでいます。

愛用のバットは、同学年で仲のいい巨人坂本勇人内野手モデルをベースにしたオリジナルの逸品。開幕後までは重さ930グラムでしたが、専属契約を結ぶ「ミズノ社」に依頼し、ここ数カ月は890~900グラムに軽量化したものを使用しています。しかも、試合前には相手先発投手の映像をビデオでチェック。球速、持ち球などを頭に入れたうえで打席に向かうというのですから、もはや「打撃のいい投手」のレベルではありません。

「(2ストライクに)追い込まれたら変化球を待ちます。相手投手の決め球を待つようにしています。真っすぐが来ても93マイル(約150キロ)くらいなら何とかなりますから」。

ここまで来ると、完全に野手のコメントです。前田自身が投げる速球も平均150キロ前後なのですが、「あれくらいは大したことない」と笑うのですから、こちらとすれば、首を振りながらも笑い返すしかありません。

実際、5月15日のパドレス戦では、先発して7回途中まで無失点と好投。1920年以降では史上初となる、12奪三振以上、しかもチームの全2打点を挙げる快挙を達成しました。エンゼルスにいたっては、前田が打席に入ると、守備シフトを強打者と同じように左寄りに変更したほどです。

「(一、二塁間へ)打った瞬間、セカンドがいないと思って、僕もとうとうシフトを敷かれるようになったなと…」。

2016年のメジャーデビュー戦で1号を放って以来、本塁打は出ていませんが、打撃練習ではドジャースタジアムの中段まで打ち込むなど、ミート力だけでなく、長打力も兼ね備えています。今後、打率3割前後をキープし、残り試合で本塁打をマークすれば、好打者として知られるグリンキー(ダイヤモンドバックス)、バムガーナー(ジャイアンツ)らとの間で、投手部門のシルバー・スラッガー賞を争うことになるかもしれません。

もっとも、前田自身は「打撃は仕事じゃないから楽しいんです」とも話しています。

「それよりも、もっと投げる方を頑張らないと」。

5月31日以来、白星から遠ざかっているだけに、最後は、さすがに真剣な表情でした。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)