プレーオフ争いが佳境に近づいてきたメジャーで、早くも来シーズンの公式戦全日程が発表されました。2020年3月26日に開幕し、最終戦は9月27日。今季初めて開催された「ロンドン・シリーズ」が「カブス-カージナルス」の顔合わせで2試合予定されているほか、プエルトリコでも「マーリンズ-メッツ」の2試合が組まれています。

その中でも、とりわけ来季の目玉企画と言われているのが「MLB at Field of dreams」です。

野球ファンならずとも、映画「フィールド・オブ・ドリームス」(89年公開)をご存じの方は少なくないはずです。米アカデミー賞で作品賞など3部門にノミネートされただけでなく、米国の野球ファンの間では、今も「お気に入りの野球映画ランキング」で必ず上位に入る作品です。この映画の中で実際の撮影に使用された、アイオワ州ダイアーズビルのグラウンドで、来年8月13日に「ホワイトソックス-ヤンキース」の試合が行われることになりました。

現時点で、開催要項などの詳細は発表されていませんが、同地のグラウンドに約8000人収容の臨時観客席を設置。映画のイメージ通り、外野後方は青々と茂った、高さ2メートルほどのトウモロコシ畑にする予定で、ベンチ入りする選手だけでなく、観客も、その茂みの間から入場するプランが持ち上がっているそうです。

イベント的な要素があるとはいえ、れっきとした公式戦ですから、現実的には問題点もあるはずです。たとえば、外野手が大飛球をキャッチしたまま、トウモロコシ畑に倒れ込んだ場合、本塁打かアウトか。グラウンド内でバウンドした打球が畑に入り込んだ場合(おそらく二塁打)、さらにどこまでをビデオ判定にするか。1試合だけの「特別ルール」も必要になるのでしょうが、おそらくそれも許容範囲内なのでしょう。ヤンキースの主砲アーロン・ジャッジ右翼手が「子どもの時に見た映画の舞台でプレーするのは夢のようだね。トウモロコシ畑をバックに外野を守るのは特別だよ」とコメントしたように、ファンだけでなく、選手にとっても、これまで経験したことのない、特別な時空間として歓迎されているようです。

今回の企画に先立ち、MLBは2016年7月3日、米陸軍特殊部隊司令部が設置されているノースカロライナ州のフォートブラッグ陸軍基地で「ブレーブス-マーリンズ」の公式戦を初めて開催しました。その際、あまりに強烈な米国の軍事色に、日本人としてあらためて強い抵抗感を覚えた記憶は、今も強く残っています。

来季の新企画は、政治や軍事的な意味合いもなく、ある意味で完全なエンターテインメントと言っていいでしょう。うがった見方をすれば、したたかで、計算高いMLBが「どんぶり勘定」で動くはずもなく、たとえ限られた観客数であっても、損をする商売をするとは思えません。ただ、夢物語のような映画の舞台に、現実の公式戦を持ち込むという、常識にとらわれない奇想天外の発想力、企画力、そして実際の行動力は、驚くしかありません。

あくまでも想像の域を出ませんが、来年の試合当日、両軍の選手は、映画のクライマックスで登場し、ブラックソックス事件(ワールドシリーズでの八百長)で追放されたシューレス・ジャクソン(ホワイトソックス)のような、1900代前半の、ダボダボのユニホーム姿でプレーするのではないかと、勝手にイメージしています。

となると、その空間は、球史をタイムスリップしたような雰囲気になるのかもしれません。始球式には、同映画で主演を務めた俳優ケビン・コスナーが登場するともウワサされています。

今後、欧州、インドまで広げようとする国際戦略だけでなく、国内市場の拡大をもくろみ、あらゆる手を駆使して実践し続けるメジャーのビジネス感覚、企画力を、あらためて実感するばかりです。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)