昨シーズン終了後、長らく停滞していたメジャーのFA(フリーエージェント)市場が、ようやく活発になって来ました。

トップランクのD・J・ラメーヒュー内野手が15日(日本時間16日)、ヤンキースと6年総額9000万ドル(約94億5000万円)で再契約することで合意しました。年俸調停交渉が翌日に迫っていたこともあり、各球団が続々と若手選手との交渉を妥結。市場全体の“流通”が、スムーズに動きだした空気が漂っています。

もっとも、今後の基準値になりそうなラメーヒューの契約内容には、メジャー経済の厳しい現状が表れているような気もします。

というのも、ラメーヒューはシーズン終了後、ヤンキースから1年1890万ドル(約19億8450万円)のクオリファイングオファー(QO)を受けたものの、拒否してFAになることを選択しました。つまり、それ以上の好条件を手にできると見込んだわけです。

昨季、史上初となる両リーグで首位打者を獲得したラメーヒューですから、例年通りであれば、破格の金額となったはずです。ところが、現実は単年計算で1500万ドル(約15億7500万円)。当初からヤンキースとは相思相愛と言われていましたが、コロナ禍で財政難に見舞われている他球団からもQOを上回る条件は出なかったとみられています。

その一方で、今回のキーポイントは、契約年数と言えそうです。32歳のラメーヒューの場合、過去の例からも最大4年と予想されていました。そんな状況下で、ヤンキースは異例の6年を提示しました。仮に、4年契約の単年20億円だとすれば総額80億円となりますが、そのかわり37歳で迎える5年後に好条件でプレーできる保証はありません。そこで、ヤンキースは1年ごとの総年俸を抑える分、契約年数を延ばす妙手を打ち、ラメーヒューの懐をくすぐったというわけです。その結果、ラメーヒューは38歳までの保証、つまり「名より実」を選択したと解釈してもいいのではないでしょうか。

市場では、最大の目玉と言われるトレバー・バウワー投手(レッズFA)をはじめ、JT・リアルミュート捕手(フィリーズFA)、ジョージ・スプリンガー外野手(アストロズFA)、さらに田中将大投手(ヤンキースFA)も契約に至っていません。

コロナ禍で緊縮財政を強いられる各球団が、どんな手を使って意中の選手を射止めるのか。“メジャーバブル”だった数年前の札束攻勢以上に、実に興味深いところです。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)