【ボストン(米マサチューセッツ州)16日(日本時間17日)=斎藤庸裕】エンゼルス大谷翔平投手(26)が、土壇場で勝負強さを発揮した。今季初の「3番」DHで出場したレッドソックス戦は1点を追う9回、2死一塁から逆転2ラン。9回以降ではメジャー初の決勝弾を放った。両リーグトップに並ぶ12号は、剛腕守護神バーンズの156キロ内角直球を打ち砕く起死回生の1発。連敗を4で止め、メジャー最古の球場フェンウェイパークでの「聖地巡礼」を3戦連続ヒットの計2発3打点で終えた。

劇的な幕切れに導いたのは、大谷の土壇場力だった。9回2死、2番トラウトが高々とポップフライを打ち上げた。試合終了か…。だが、これが右翼手、二塁手、中堅手の間に落ちるポテンヒット。奇跡的に巡ってきた打席だった。大谷は直後の初球を仕留めた。「すごい大きいと思いますね。今日負けるか、負けないかでは、だいぶ(違いが)大きい」。今後の戦いにも影響を与える局面で、チームを救った。

これまでは決して“土壇場に強い”とは言えなかった。打者に専念した2年前の19年「悔しいのが大きい」と、ふがいなさを痛感した。7月25日からのオリオールズとタイガースとの6連戦で2勝4敗。大谷は24打数5安打の打率2割8厘、1本塁打、2打点。勝負どころで空回りし、これを機にプレーオフ進出への勢いがしぼんだ。20年も同じだった。登板2試合で前腕を故障後に打者専念も、不振に陥った。「悔しさの方が大きかった」。唇をかむ時が続いた。

しかし、今季は違う。4月8日のブルージェイズ戦で7回2死三塁から同点打。4月25日のアストロズ戦では8回に決勝弾を放つなど、終盤で勝ちに直結する打撃を重ねる。肉体の成長、技術の充実と並行して精神的なたくましさが際立つ。挫折を乗り越えた者に宿る強さ。それがあるから、結果で示せる。

起用法が、大谷を後押ししてくれている面もある。過去2年とは「打者大谷」と「二刀流大谷」の違いがある。かつて、打者のみで出場を続けると「余計な修正をしたりというのが多くなってしまう」と話したことがある。一方で、登板の時は「打者のスイッチを切る。投手を挟むと、次に打者で出るときに何を直せばいいかが分かったりする」。この切り替えのリズムこそ、好循環を生み出す。

この日は今季初の3番で期待され、第4打席まで凡退。つまずきながら、最後の最後で実を結んだ。「昨日、一昨日と負けている。こういう試合を勝てるということは力があると思っているので、ここからいい波が来るように頑張りたい」。起死回生のアーチに、ダイヤモンドを回りながら両手を2度たたいて喜びを表現した。出迎えたトラウトとは、声を上げながら強く腕をぶつけた。メジャー59本の中で最高の価値の1本。土壇場で強くなった二刀流大谷の底力だった。