エンゼルス大谷翔平投手(29)が右肘靭帯(じんたい)を損傷し、今季は投球を回避することに決まった。一方、打者としては出場を継続することも分かった。今後、セカンドオピニオンを聞いて手術の有無を判断する。日本で肘の内側側副靭帯の再建手術(通称トミー・ジョン手術)の第一人者、慶友整形外科病院の古島弘三副院長に見解を聞いた。

-大谷はメッツ戦にも同行し、打者として出場を続ける見通しとなった。肘への負担はないのか

古島氏「負担は右打者と左打者でも違う。右投げなので、左打ちの方が負担がかかるリスクは少ない。右手はインパクトの瞬間に引っ張られる力が加わるわけではない。バットを投げ出す瞬間、外角低めを打ちに行った時はリスクがあるかもしれない。通常、それほど打撃で影響は大きくない。ただ、手術直後や手術からの復帰過程では注意しながらになる。現状、痛くないなら、打つことは可能。打つ時にも痛みが出るようなら、かなり危険だ」

-18年も靭帯損傷がありながら打者としては出場を続けた。

古島氏「大谷選手の中では、肘の靱帯損傷は打撃には影響ないという認識なのでしょう」

-2度目のトミー・ジョン手術は成功率が低いのか

古島氏「アメリカの論文では、2度目の手術の復帰率は50%ぐらいとなっている。ただ、我々のやり方では、2度目でもそんなに低くない。しっかり治療すれば大丈夫」

-これまで患者で2度目の手術に至ったケースは

古島氏「2回目の手術をする人は、ごくまれ。プロ野球選手でも長く続ける人だけ。元ヤクルトの館山昌平選手は3回やっている。メジャーで活躍していた選手、韓国の選手、日本に戻った選手らがいて、みな復帰できた」

-先生の患者では、1度目も2度目も成功率は変わらないのか

古島氏「そうですね」

-骨に穴を開けて靭帯を1度つなぎ留めると、別の場所に穴を開けるスペースが減って、選択肢が少なくなるのでは

古島氏「アメリカのやり方では、そういうことはありえる。日本でもスクリューでネジを使っていると、2度目は大分やりにくくなる。穴が大きくなったり」

-先生のところはなぜ、2度目でも変わらないのか

古島氏「金属を使わないので。靭帯を通している部分が骨でないだけで、同じところに穴を開けることで、反対側の腱を取って移植する。うちの伊藤法は、2度目でも同じぐらいの成績は出せる。3回目もできる」

-腱を取り換えてしまえば一緒の穴を使える

古島氏「そうですね。ただ、手術が2回目、3回目になると、瘢痕(はんこん)や癒着組織が、きれいに剥離できなくなっている。手術の難易度は上がる。熟練した人がやらないといけない」

-断裂の程度が不明だが、PRP(多血小板血漿=けっしょう)治療など保存療法を選択するべきか、2度目の手術をするべきか。

古島氏「PRPは効果がないと思う。切れたところが治る、移植した再建靭帯がつながることは、PRPでは無理です。除痛効果は多少あると思うが、それだけで、根本的治療としては1度手術している人には、あまり効果がないと思う。ただ、靱帯ではなくて、前腕の筋肉や屈筋群、肘の内側についている筋肉の炎症であれば、PRPの効果はあるが」

-逆に1度目なら効果があるかもしれない

古島氏「効果があることもあるので、手術前に1度試みてもいいかなと思います。ただ、プロのレベルでは一時しのぎではだめなので。高校生や中学生なら、『夏まで』という形でPRPをやることもある」

-2度目の手術が賢明か

古島氏「痛かったら、です。投手ができないというならやるしかないですね」

-今季は体がつったり、けいれん等があったが、2度目の靱帯損傷に至った原因は

古島氏「休養不足で筋肉に疲労が蓄積したと考えられる。普通なら休めば回復する。回復する前に疲労がたまることが積み重なったと思う。1日休めば軽くなるという状態から、1日では回復が厳しいよとなると、筋肉がけいれんしたりする。疲労していると筋肉のパフォーマンスが落ちる。前腕の筋肉の力が入りづらくなる。筋肉も肘の外反ストレス作用を守ってくれているのだが、それがなくなると靱帯の負荷が高まる」 

-筋肉の疲労が影響した

古島氏「全身の疲労も、下半身の力がバランスが崩れると、上半身にもストレスがかかる。トータルで見れば全身でしょうし、局所で見れば前腕の筋肉。また、今年はスイーパーとかスライダー、カットボール系を結構投げていた。こういう球種は負担が大きいので、肘には怖いなとみていた。ストレートは160キロ近い。130、140キロ程度の投手より肘には負担がかかる」

-米国であまりスプリットを投げないのは肘の負担を減らすためと聞くが、スライダー系が負担が大きいと

古島氏「スライダーとストレートとフォークボールで比較した試験データがあって、スライダーが一番負荷がかかっていた」

-断裂の程度によるが、セカンドオピニオンを求められたら、投げられないなら2度目の手術を薦めるか

古島氏「切れたのなら、するしかないと思う。移植した腱(けん)が部分的に切れてくると、投げていればさらに切れてくる」

-くっつくことはない

古島氏「切れれば弱くなる。打者であと1、2カ月ぐらいやってから方針を決めるのでは」