こんなに楽しい取材はなかった。なぜなら取材を受けてくれた人たちが、情熱を込めて話をしてくれたからだ。興奮さえしていたかもしれない。それほど松坂を尊敬し、またデビュー戦の思い入れが強かったのだろう。取材をしている私にも、その思いがひしひしと伝わり興奮した。

 ことに驚いたのが文化放送アナウンサー斉藤一美さん(47)だ。もう16年も前の試合なのに、詳細まで実にはっきりと覚えている。書き出しに放送開始の実況を書きたいが、どんなことをしゃべったか、だいたいでいいので覚えているか聞いたら、瞬時に当時の実況内容を教えてくれた。まるで囲碁棋士が初手から投了まですべての布石を再現するかのように。

 斉藤さんは今春のキャンプでソフトバンクを訪れ、久しぶりに松坂と再会した。2月5日の公開ブルペンに居合わせた。セットポジションを構えた姿を見ただけで、涙がこぼれてきたという。「本人には伝えていないけど、僕の原点はこの人をしゃべることなんだと思いました。向こう(米国)で成功した人はいっぱいいるけど貫禄が、格が違う。中継できたら幸せ。どう攻略されるか楽しみ」と言った。打たれるところ? おかしいなと思って聞くと、文化放送は「ライオンズナイター」だから当然のことだった。斉藤さんの実況が聞きたいと思った。【矢後洋一】